BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『なぜ「改革」は合理的に失敗するのか 改革の不条理』

2011/04/07 15:27

週刊BCN 2011年04月04日vol.1377掲載

 旧弊を打破し、物ごとをよりよい方向に導こうとする「改革」。とくに政治の世界で顕著なような気もするが、そのレッテルが貼られたとたん、頓挫する姿が目に浮かぶくらい、「改革」に「失敗」はつきものである。なぜか。

 本書は、合理的に改革を進めているのにもかかわらず、それらが失敗する「改革の不条理」を、人間の不完全性を前提とした新制度派経済学や、人間の心理状態が経済活動に及ぼす影響を明らかにする行動経済学のアプローチで解き明かしていく。著者は、改革の不条理が起きる理由――不一致を三つ挙げる。すなわち、「全体の合理性」と「個の合理性」、「効率性」と「倫理性」、「長期的利益」と「短期的利益」だ。文字面だけ見ていると何が何だかわからないが、古くは武田勝頼や旧日本軍の失敗、近年では派閥政治、入札制度、医療制度、ゆとり教育など、多くの事例で胸にすとんと落ちる仕組みになっている。

 判断そのものは合理的でも、人間とは不完全な存在で合理的ではないがゆえに、失敗は起きる。そして、そこから抜け出す道も、また人間が鍵だ。過去に犯してきた失敗を糧に、人間は「制度」をつくりだすことによって改革の実を挙げてきた。しかし、制度はすべての人に適合するわけではない。最終的な解決策は、責任を伴う合理的な行動をとる「自律的人間」であり、それらの集合体である組織だ、と著者は結論づける。人間の合理的な思考と本質的にもつ不合理性、それに経済学をかけ合わせて、不思議な読後感を与えてくれる一冊だ。(叢虎)


『なぜ「改革」は合理的に失敗するのか 改革の不条理』
菊澤研宗著 朝日新聞出版刊(1500円+税)
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