BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『新・和魂和才 ゆるやかで美しい成熟戦略』

2011/02/17 15:27

週刊BCN 2011年02月14日vol.1370掲載

 平安の和魂漢才から明治の和魂洋才、そして近年、目にすることが多くなった「和魂和才」。自らの長所にしっかりと目を向けるようになったことは、成熟の証だろうか。経済危機の本質を「パックス・アメリカーナの終焉」と捉えたうえで、「人口五千万以上の先進国で、美しく豊かな成熟路線をしっかり描ける国はままことに少ないが、その一つが日本だ、という自負心」から書かれたのが本書だ。「自負心」というと、何やら根拠が曖昧で滑りがちな空論に終わることが多いが、そこは練達の経営評論家、多極化した世界のなかで日本の進む方向を具体的に示している。

 では、和魂和才とは何か。一つには、文化の力である。アニメやゲームなどのサブカルチャーだけでなく、例えば京・鴨川の床(ゆか)に伝統の「力」を発見し、桂離宮の松琴亭に美の「力」をみる。豊かな自然をもつ日本の風土が、そしてそれらに育まれた地方の気質が「力」の源である。

 日本的経営も、和魂和才の要諦だ。非効率の経営、やせ我慢、ゆるやかな階級社会、ほどほどを知ること、そして地道な努力――。マネーゲームに踊らされた後には、一服の清涼剤にも読める。

 流れるような展開で、副題にもある「ゆるやかで美しい成熟」への道筋を示す。そこには、「和魂=大和魂」から容易に連想される偏狭なナショナリズムの影はみじんもない。最終章は「入亜入欧」をキーワードに世界情勢を俯瞰しながら、やがて生まれる「新」日本文化の時代を予見している。(叢虎)


『新・和魂和才 ゆるやかで美しい成熟戦略』
江坂 彰 著 NTT出版刊(1800円+税)
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