旅の蜃気楼

房総の海はのんびり、ゆったり

2010/11/25 15:38

週刊BCN 2010年11月22日vol.1359掲載

【館山発】幼い頃、海幸彦と山幸彦の物語を読んだ記憶がある。魚籠と釣竿を持ったお兄さんの姿が、かっこいいと思った。BCNの“山幸彦”は年に一度、房総の“海幸彦”になる。今回は千葉県館山の富浦新港から船で沖に出て、アマダイ釣りに挑戦した。アマダイは寒くなってからの釣りだという。そろそろシーズンなのだが、今年の水温はまだ温かいらしい。例年に比べて1か月ほど遅れていると、同行の釣り好きたちは話していた。

▼車に釣り道具を積んで、港へ向かう。われわれを待ち受けてくれた船長は、真っ黒な顔に野球帽を被っている。眼鏡の奥の優しげな目が、釣りが始まると同時にぎょろぎょろと動く。釣り人の竿先に魚信がないかと真剣な表情で見つめているのだ。1年ぶりの船釣り。焼玉エンジンの音は郷愁を誘う。頂上がえぐれた、海抜の低い尾根が湾の一方にせり出している。沖に出て尾根の突端を振り返ると、猿が口をへの字に曲げて笑っているように見える。印象的な岩肌だ。見渡せば、海は果てしなく広い。

▼釣り針に小さなエビ(オキアミというらしい)を引っ掛けて、放り込む。錘が海底に到着する。リールを数回巻き上げて、錘を浮かす。釣り針まではおよそ80メートル。竿先に神経を尖らす。体は船上だが、心は海底の釣り針だ。コツコツと魚信が伝わる。スッと引き込まれるのに合わせて、釣竿を立てる。ガツンとまではいかないが、小ぶりなレンコダイが釣れた。満足、満足。

▼本命のアマダイは、ご機嫌斜めだったようで姿を見せてくれなかったが、レンコダイやトラギスが花を添えてくれた。持ち帰って塩焼きにしたら、これがけっこう旨い。アマダイ釣りは来年3月頃までできるそうです。ガッツン気分を味わいに、お出かけになってはいかがですか。(BCN社長・奥田喜久男)

腐っても鯛? 水深80メートルの底からシグナルを送ってくれたレンコダイに感謝
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