BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『この国を出よ』

2010/11/11 15:27

週刊BCN 2010年11月08日vol.1357掲載

 暗い気持ちになる本である。だらしない日本(人)の姿があからさまにされているからだ。「僕はこれまで、政治的な発言はあまりしてきませんでした」という柳井正氏が、もう黙っていられないところまで日本の危機が迫っていると警告を発する。大前研一氏も、このままではジャパン・パッシング(素通り)からジャパン・ナッシング(無視)へと進み、ついにはジャパン・クラッシング(崩壊)の崖っぷちに立たされると警鐘を鳴らす。二人の論客が、憂国の根拠と処方箋を語り合う。

 もっとも、あの高度経済成長時代にも、日本を憂える類いの本は上梓されていたし、“経済は一流、政治は三流”というのが、日本に対する評価の定説だった。しかし、一流だったはずの経済の沈滞を目の当たりにすると、この二人の論客が発する警告は深刻さを通り越して恐怖すら覚える。ジャパン・クラッシングが起きれば、「あらゆるものの価値が暴落して、二束三文の叩き売りが日本中で始まる。その時、中国などから投資グループが大挙してやってきて、日本の不動産も高い技術力をもつ企業も、すべて超バーゲン価格でさらっていく」(大前氏)という状況が生まれかねないのだ。

 では、低迷ニッポンを救う処方箋とは何か。所得税・法人税をゼロにして海外からの投資を呼び込むなどが手法として挙げられているが、柱となるのは、「この国を出よ」、つまり海外進出だ。海外脱出組が日本へ戻ってきた時、新たな日本が誕生するという論旨である。(止水)


『この国を出よ』
大前研一/柳井正 著 小学館刊(1400円+税)
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