旅の蜃気楼
愛すべき“事件記者”との別離
2010/10/28 15:38
週刊BCN 2010年10月25日vol.1355掲載
▼彼と最初に出会ったのは2002年4月15日だった。その数日前に電話をもらった。『ASAHIパソコン』の編集長に就任したので、業界の話を聞かせて欲しい、という依頼である。他誌の編集長が就任挨拶にくるなど、初めてのことだ。部屋に入ってきた奥ちゃんの姿は想像をはるかに超えていた。派手な指輪を数個はめて、腕には鎖をじゃらつかせ、髪はポニーテールで、ヒゲ面。まるでヘビメタのロック歌手だ。
▼「この業界、どうなんですか。門外漢のド素人が編集長に就いちゃったもんだから、イロハを聞きに歩いてるんです」。当時の業界誌関係者の一人が私であり、日経の太田さんなのだ。以来、回を重ねて会った。会うと、事件記者当時の話が出る。リクルート事件の話だ。記事は、1988年6月18日の朝日新聞に掲載された。「助役が関連株取得」という見出しで始まる。スクープするまでの顛末を語る姿にほれぼれした。これほど新聞記者と朝日新聞と自分を愛する人は少ないと思った。仕事師というのは、きっと美意識の塊なんだろう。
▼「後は勝手にしてくれ~。あばよ」。こんな奥ちゃんは一見、無責任にみえるが、駆け抜ける人生も認めないわけにはいかない。(BCN社長・奥田喜久男)
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