旅の蜃気楼

“白きたおやかなる峰”に登る

2010/10/07 15:38

週刊BCN 2010年10月04日vol.1352掲載

【白山発】生まれ故郷の岐阜には名山が多い。長野との県境には乗鞍岳、焼岳、穂高岳、槍ヶ岳の飛騨山脈が、石川との県境には白山がある。こう書き始めると、何だかお国自慢に終始しそうだ。岐阜県内で一番背の高い山は、笠ケ岳。標高2897mの笠の形をした名峰だ。この山頂から見る槍ヶ岳はまたまた見事な笠の形をした姿を見せてくれる。さらに北に位置する立山からこの二つの山を見ると、同じ笠あるいは槍の形をした相似峰が遠くにそびえ立っている。雪が山一面に積もった時の光景は、自然の崇高さを感じて、思わず手を合わせてしまう。

▼岐阜市内には、織田信長が斎藤道三を打ち破った金華山がある。この山に中学時代からよく登った。山頂からは濃尾平野が見えて、関ヶ原のある伊吹山から尾張を一望できる。戦国時代の要所だ。眼下には長良川が蛇行して、その源流は郡上、さらに山を詰めると、石川との県境にある白山に行き着く。かねてから登りたいと思っていた山だ。先ごろ、その念願を叶えた。

▼標高は2702m。頂上には白山比・神社の奥宮がある。山の名前は「はくさん」と読むが、神社の名前は「しらやまひめ」と読む。日本海がまだ表日本だった昔々、大陸から来た人たちはこの山を見ながら航海したに違いない。白山の山頂は岩肌で白っぽい色をしている。だから、白山と命名したのかしら、と想像する。白は冠婚葬祭の基調になる色だ。白い山は人の思いを積み重ねて、いつの間にか霊山になる。車のない時代には、人々はどんな気持ちで白山に登ろうとしたのか知る由もないが、信仰の山として、頂上を目指したと思う。登山ルートは三つあった。福井側のルートである越前馬場、石川からの加賀馬場、岐阜からの美濃馬場だ。加賀馬場が現在の一般的な登山道になっている。白山はのびのびした見晴らしのよい山だ。山頂に近い弥陀が原はとくに素晴らしい。紅葉からもうそろそろ初冠雪になる頃だ。渡来人になったつもりで、白山の奥宮にお参りしてはいかがですか。朝鮮半島には白頭山がある。いつかこの白い山にも登ってみようと思っている。(BCN社長・奥田喜久男)

渡来人も登った(かもしれない)白山比・神社の奥宮にて
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