旅の蜃気楼
柴灯祭が引き合わせてくれた旧知の人
2010/08/26 15:38
週刊BCN 2010年08月23日vol.1346掲載
▼8月13日、月山頂上でのことだ。毎年登って、20年になる。クレオの創業メンバーである猪股勝彦さんの勧めで月山に登り始めた。「奥田さん、月山に登りなさい。8月13日の夜7時に頂上で祭があります。それに間に合うように登りなさいよ」。柴灯祭(さいとうさい)と呼ばれる祭である。参拝者がこの1年に納めた卒塔婆を頂上で焚き上げて、お盆の迎え火とする。燃え上がる卒塔婆の炎を見つめながら仲間との思い出を追っていると、区切りがついた気になり、明日への一歩が踏み出せるのだ。
▼1991年に登り始めて、毎年、縁の深かった仲間の名前を卒塔婆に記している。今年は2枚だ。「お名前は?」「よしわか・とおる。とおるの字は徹です。もう一人は、たなか・しげひろ。ひろは難しいほうの字です」。卒塔婆に、シゲが眠り薬用に愛飲していた銘柄のウイスキーをジャブッとかけた。板の色が上から下に変わっていく。それを見つめながら、佇んだ。いつもより長く佇んだ。月山頂上神社のお社を出たところで声をかけられた。「奥田さん、僕です。分かりますか」。70半ばの年齢の人だ。「谷口融です。以前、富士通オフィス機器の社長をやってました」「失礼しました。お会いしたのはずいぶん以前ですよね」。10年ぶりになる。「吉若さん、残念なことでしたね。よく、ゴルフをご一緒しましたのに」。ごぞんじだったのだ。嬉しかった。こんな偶然な出会いはめったにない。ワカに感謝だ。人は人が覚えている限り死なない。シゲとワカと、今も一緒に仕事をしている。(BCN社長・奥田喜久男)
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