BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『秋葉原は今』

2010/08/19 15:27

週刊BCN 2010年08月09日vol.1345掲載

 東京・秋葉原は、混沌の街である。何もかも飲み込んでしまうエネルギーをもつ秋葉原の“今”を伝えるために、本書はその前段で混沌に至る歴史と地誌から語り始める。戦前の電気街の成り立ち、焼跡からの電気街復興、電気からコンピュータへ、そしてオタクの聖地へという街と人の変遷……。始まりは明治期の水運の街であり、到達点は2006年に完成した秋葉原再開発、エピローグは電気街の今だ。

 23区最後の大規模再開発といわれた秋葉原再開発は、秋葉原貨物駅と神田青果市場の跡地、計8.8hの有効活用が眼目。著者は、千代田区と地元商店街から成る秋葉原再開発協議会の顧問であり、都市工学の専門家として、再開発の経緯をつぶさにみてきた。鈴木~青島~石原と代わっていく都政の影響や、お決まりの事業者と地元の綱引き、さらには現在、墨田区押上に建設中の東京スカイツリー建設地選定などの思惑が絡みながら語られる都市計画の経緯は、なかなか読ませる。そして悼尾を飾るのが、協議会が全力を挙げて取り組んだ秋葉原の街としてのデザイン「D-秋葉原」構想だ。

 著者は、再開発を図式化して「秋葉原駅前の遊休地をディベロッパーに売却し、駅を挟んでオフィスビルを三本、量販店を一本、それに住宅を一本つくったということに尽きる」と記しながら、そこに魂を入れ、街全体をつくる「D-秋葉原」構想を語る。残念ながら資金不足のため中途での撤退を余議なくされたが、それでも構想の中核部分は、秋葉原のこれからの“よき混沌”をかたちづくっていくはずだ。(叢虎)


『秋葉原は今』
三宅理一著 芸術新聞社刊(2600円+税)
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