BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『グーグル秘録 完全なる破壊』

2010/07/08 15:27

週刊BCN 2010年07月05日vol.1340掲載

 同じ「検索」という技術に端を発しながら、ポータルとしてトラフィック獲得に徹する道を選んだヤフーに対して、検索とは何か、検索から何が生まれるのかを徹底的に突き詰めながら歩んできたグーグル。結果として、広告モデルを確立したグーグルが覇権を握った……という流れだけを辿る本なら、巷にいくらでも転がっている。しかし、本書は違う。著者はグーグル経営陣と社員、周辺の人々に150回を超えるインタビューを行い、彼らの肉声をもって「グーグルとは何者なのか」を語らせている。

 とくに興味深いのは、二人の天才技術者が一人の敏腕経営者を得て、自らを広告業と定めてからの経営のスピード感だ。「エンジニアがキング」の企業文化のなかで、内部崩壊や大企業病の危機を乗り越える姿。繰り返すM&A、マイクロソフトやヤフーとの鍔ぜり合い、伝統的なメディアとの競争と協調、中国への進出……。礼賛でも批判でもない。客観視した報道という手法で、12年間の軌跡を生々しく描く。

 しかし、私たちが最も知りたいこと――彼らの「邪悪になってはいけない」というモットーは本当なのか――への答えは、ここにはない。本書の原題は『Googled』、つまり「グーグル化された」である。「ググる」が一般動詞になり、この言葉が使われなくなるほど「ググること」は日常化している。世界がグーグル化されているからこそ、その一挙手一投足は常に耳目を集め続ける。ちなみに今号の「Key Person」は本稿とは関係がない。念のため。(叢虎)


『グーグル秘録 完全なる破壊』
ケン・オーレッタ著/土方奈美訳 文藝春秋刊(1900円+税)
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