旅の蜃気楼

何でも呑み込む中国の大きな胃袋

2010/06/03 15:38

週刊BCN 2010年05月31日vol.1335掲載

【羽田発】今、上海に向けて移動しているところだ。羽田空港を10時25分に出て、上海の虹橋空港に12時30分に到着する。これで15時からの会議に間に合う。モノレールの走る音を聞きながら、iPhoneの画面に人指し指を走らせて原稿を書いている。飛び立つ前には原稿をメールで送稿しよう。念のために、カバンの中にはパソコンを入れている。でも最近は、移動中にパソコンを使うことはなくなった。今日は5月25日、火曜日。29日の土曜日に帰国する。その頃には、iPadの画面に指を走らす人を車中で見かけるに違いない。

▼この原稿を早く書き上げて読みたい本がある。『これからの「正義」の話をしよう』だ。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の『JUSTICE』という講義内容を書き下ろした内容の翻訳本である。早川書房から出たばかりの本で、日曜日にAmazonの宅配で届いた。手にとってみると、昨年9月に出版されて話題をさらった『FREE』(クリス・アンダーソン著/NHK出版刊)と形状がまったく同じだ。不思議なもので、同じ時期に同じような内容の書籍が生まれる。この二冊の本は書かれている内容は異なるが、“こと”の本質的な価値の変化を説いていることでは目線の位置は一緒だ。双子の名著といってよい。偶然にも同じ時期に同じ内容の書籍が出たことは、多くの人がすでに潜在的に同様のことを感じ始めていると考えてよいだろう。情報をやりとりする空間はインターネットで時空を超えたから、同じように考え始めた人は、地球の規模で存在するのであろう。

▼羽田空港が近づいてきた。原稿の締めにかからねば。今、深い悩みを抱えている。それを告白しよう。iPadを買うべきか、それともAmazon Kindleを買うべきか。来週の帰国までには決断しよう。あゝ、悩ましい旅になりそうだ。新しい“こと”はアメリカで生まれて、中国の大きな胃袋で消化され、価値はどんどん先に進んでいる。待ってくれ、そんなに早く進化しないでほしい。日本時間を見直してくれ…。(BCN社長・奥田喜久男)

有名な孫正義さんの将来を語る本ではない。念のため…
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