旅の蜃気楼

凧揚げにまつわる“練”の力

2010/05/20 15:38

週刊BCN 2010年05月17日vol.1333掲載

【浜松発】凧揚げ祭を見た。浜松駅からバスで20分、浜辺に向かう。砂地と砂防林の空き地に、はっぴ姿の凧揚げ衆たちが勢ぞろいしている。町内ごとに円陣を組んで、あっちでもこっちでも、凧紐を引いたり緩めたり。「おいしょ、おいしょ」。この掛け声がなんとも、この光景にぴったりで、凧は風に乗って舞い上がっていく。空には100近くの大凧が舞っている。風に乗った凧は悠然と空中に浮遊している感じだ。皆が皆、こうして上手に揚げるわけではない。凧がくるくる舞って隣近所の凧にちょっかいを出す凧もある。「あっ、あぶない!」。町内の凧揚げ衆は地面にぺたりと座って、悠然と凧を見上げている。満足そうな雰囲気が漂っている。

▼家に長男が生まれると、町内が凧揚げをして祝ってくれる。これがもともとの祭りだ。町内の凧揚げ衆は、今は男の子も女の子も祝ってくれる。時代の流れだ。昼は凧揚げ、夜は屋台(山車)を引き回して町内の繁栄を誇示するのがこの祭りだ。それだけではない。凧揚げ衆は、凧を揚げる祝いの家に門付けして、“激練”をするのだ。この時も「おいしょ、おいしょ」と叫んで、人と人が身体を押しつけあって盛り上がっていく。これが“練”だ。その激しいのを“激練”という。ただそれだけだが、練りをみているうちに、参加している気分になる。

▼浜松の祭りで、練り上げる人の力に不思議な力を感じた。BCNは創業時の社名であるコンピュータ・ニュース社からすると30年目に入る。当時はパソコン市場の黎明期だ。それ以後、情報のデジタル化が進み、私たちの生活に根づき始め、さらにわくわくさせるデジタル商品『iPad』も日本で間もなく発売される。デジモノオタクにとってはたまらない世界が広がっていく。浜松の祭り会場でも、PCで映像をライブ配信している人がいた。デジタルコンテンツはライフスタイルから産業の構造も変えている。ものづくりを得意としていたはずの日本人はどこへいってしまったのだろうか。解を求める旅は、まだまだ続く。(BCN社長・奥田喜久男)

子供の誕生を祝って、町内が凧を揚げてくれる
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