BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『経営の精神――我々が捨ててしまったものは何か』

2010/04/15 15:27

週刊BCN 2010年04月12日vol.1329掲載

 経営学の第一人者が著した本である。といっても、学術論文のような固い内容ではない。「経営とは何か」という本質を平易な文章で問いかけていく。

 資本主義の企業を成り立たせるためには、三種類の「精神」が必要だというのが、この本の真髄である。第一は市民精神。社会や職場のルールや約束を守り、真剣に仕事に取り組もうとする勤勉さ、克己心、従順さである。第二は、企業精神。何ものかを追い求め、さまざまな障害を克服して志を成し遂げようとする精神である。第三は、利益にこだわり、そのために合理的判断を働かせようとする精神、自分自身の利益をもとに考えようとする精神である。日本の企業のなかで、この三つの精神のバランスが崩れてしまっているところに問題があるというのが、著者が鳴らす警鐘である。では、なぜバランスが崩れてしまったのか。その大きな要因として、「株主主権と営利主義の暴走」が挙げられている。一連の会社関連法の改革、四半期決算の導入が日本企業の経営をゆがめてしまったというのだ。

 だが、著者は悲観しているのではない。最終章では「経営精神の復興」が掲げられている。アメリカ流成果主義の破綻から学んだ日本独特の企業精神涵養法が説明されている。そのなかで目を引くのは、「便所掃除の経営学」の項である。日本電産の永守重信社長やイエローハット創業者の鍵山秀三氏らが実践する便所掃除による経営改革だ。古くて新しい経営手法が、改めて問われている。(止水)

『経営の精神――我々が捨ててしまったものは何か』
加護野忠男著 生産性出版刊(1800円+税)
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