旅の蜃気楼
『AVATAR』が描き出すエコの世界
2010/04/01 15:38
週刊BCN 2010年03月29日vol.1327掲載
▼3D画面では地球人と密林に棲むナヴィとの戦いが始まる。近代兵器の前に、弓矢は通用しない。ナヴィは劣勢になる。近代兵器軍が一方的に勝ち進んでいく。激しい殺戮が展開される。ナヴィは最後の力を振り絞って戦う。はかない抵抗だ。力が尽き果てようとする。そのとき、自然のバランスを司るエイワが、最強の鋼鉄でできた屈強のサイの軍団を敵陣の近代兵器軍に向けて放つ。サイの驀進が続く。次々に近代兵器をなぎ倒し、瞬時瞬時に、軍は統制を崩して破れ果てていく。サイの姿かたちは不恰好だが、かっこいい。「いよ、待ってました」と拍手を送りたくなる。
▼『AVATAR』は自然のバランスを問いかけてながら、戦への戒めを示している。人間の破壊に対する自然の反撃。否定できない自然の神秘。自然への畏れ。人が求める生活の心地よさと、自然破壊との折り合いのつけ方は私たちの永遠のテーマだ。行き過ぎたら立ち戻る。このところは立ち戻りの時期に入っている。“エコ”への取り組みがその証だ。BCNが取材対象としている産業もエコへは積極的に取り組んでいる。素晴らしいことだ。
▼映画が終わった。『AVATAR』の底流に流れるものと同質の映画に、宮崎駿監督の『もののけ姫』がある。森には精なるものが棲んでいる。精なるものとはなにか。それは“森の気配”だと思っている。『AVATAR』では“わたすげ”で森の気配を表現していた。もちろん気配は本当は見えないのだが、わたすげが、主人公のジェイクの身体に幾つも幾つも寄ってくるシーンは、感動的だった。新しい時代がやってきた。(BCN社長・奥田喜久男)
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