旅の蜃気楼

左義長の祭囃子とお別れのサンバ

2010/03/25 15:38

週刊BCN 2010年03月22日vol.1326掲載

【近江八幡発】祭囃子が聞こえる。もうそれだけで、居ても立ってもいられなくなる。身体が自然にそちらの方角に向かってしまう。近江商人のふるさとを訪ねて、その帰りのことである。3月13日の朝、タクシーで近江八幡駅に向かう途中のことだった。「運転手さん、お土産にでっち羊羹を買いたいんだけど『和た与』という店ありますか」「あるけど、近江八幡では『たねや』が有名だよ」「いいんです、『和た与』に行ってください」。頼まれたお土産を買うために立ち寄った『和た与』で、丁稚羊羹を買った。

▼『和た与』の店内に『左義長まつり』のポスターが貼ってある。「おや、左義長?」。左義長という祭事は1月のはずだが…。近江八幡の左義長は3月13日に開催するんだ、と不思議に思いながら、お祭りの神社の方角に車を走らせてもらった。聞こえる、聞こえる、祭囃子が聞こえる。「ここで降ろしてください!」。車のドアが開くと、鳥居の前の道は祭の陽気な雰囲気が充満している。その奥に、立派なお社が見える。日牟禮八幡宮だ。

▼ここまで、原稿を書いていたら、次の予定の時刻が迫ってきた。やばい状態だ。楽屋内の話になるが、この『旅の蜃気楼』のコラムはいつも校了間際まで“いじいじ”しながら書いているので、編集部内では、困ったもんだ扱いをされている。今回も同じ状態だ。3月15日の月曜日、夕方5時。「困ったな、今日はこれから、若ちゃんとのお別れ会だ」。出かけなきゃ、という状態で、赤坂で行われる故吉若徹さんとのお別れ会の会場に向かった。もう大変な混雑状態で、150名定員の会場に300名の皆さまにお越し願い、お別れをしていただいた。白いカーネーションを献花した。ここまでは静かな儀式だった。そして、般若湯をいただきながら、会場は徐々に熱気を帯びてくる。「ダンダンダダン、ダンダンダダン…」。吉若さんが好きだったサンバの曲だ。この音なんだ、この音に彼は魅かれたんだ。「若さん、聞こえるかい、サンバの音が。みんなでお別れをするよ」。皆さまの心のこもったお別れ会、本当にありがとうございました。(BCN社長・奥田喜久男)

頭の上に「火のぼり」という御幣をつけた祭の列が練り歩く
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