BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『イノベーションのジレンマ 日本「半導体」敗戦』

2010/02/04 15:27

週刊BCN 2010年02月01日vol.1319掲載

 「日本半導体産業には深刻な病気がある。それは、過剰技術で過剰品質、過剰性能の製品を作ってしまう病気である。(中略)この病気のせいで、私の人生は、大きく狂ってしまった」(序文より)

 1987年、日立製作所に入社し、一貫して半導体の微細加工技術の開発に従事してきた著者は、わが国半導体産業の致命的で、構造的な欠陥を目の当たりにしてきた。

 80年代半ば、日本の半導体メーカー(日立製作所、東芝、NEC、富士通、三菱電機など)が生産するDRAMは、米国を抜いてシェア世界一を獲得した。その原動力となったのは、大手コンピュータメーカーの「25年保証の高品質なDRAMを持ってこい」という法外ともいえる要求に見事に応えた日本メーカーの技術力だった。このお蔭で世界のトップシェアという勲章を得たものの、オーバークオリティで高コストな製品づくりに突き進むという日本独特の“病気”に罹ってしまった──というのが、著者の見解である。

 例えばインテルと、日本半導体メーカーとの違いはどこにあるのか。それは工程フローの差となって現れているという。80点の出来栄えでいいトランジスタでも、日本の技術者は120点を目指す。しかも、コストは無視。一方、インテルでは最終製品から逆算して、利益が出るように工程フローを組む。この違いが、盛衰を分けた大きな要因となっている。もって他山の石とすべき産業は少なくないと思われる。(止水)

『イノベーションのジレンマ 日本「半導体」敗戦』
湯之上 隆著 光文社刊(952円+税)
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