旅の蜃気楼
商売繁盛の願いを込めて「酉の市」
2009/12/03 15:38
週刊BCN 2009年11月30日vol.1311掲載
▼鷲神社の境内とその周辺は熊手だらけだ。腰の丈ほどの縁台から電柱の高さほどまで、天まで届けといわんばかりに吊り下がっている。熊手に笊。もちろんお金を掻き集めて、笊ですくうわけだ。この熊手は縁起物だ。お客は店の人と丁々発止のやりとりをする。「負けてくれなきゃ買わない」「その値段じゃ、赤字だよ」「その程度の値引きじゃ、買わないよ」「もう、きついねー。それじゃ、商売繁盛のかんざしもつけよう。もうこれ以上はダメ」「よし、買った」。交渉成立した金額を支払い。「商売繁盛! しゃんしゃんしゃん」となる。あちらでもこちらでも、大きな声を張り上げて、境内は三本締めの渦となる。そして帰りがけに、「ご祝儀だよ」と言いながら、元の値段との差額を手渡す。
▼この話を関西に長くいた編集者に伝えたら、「大阪には、えべっさんという商売繁盛の祭りがあって、同じように値切るんやけど、ご祝儀は渡さないですね」。なんとなく、関東の人はお人好しだね、そんなニュアンスが言葉に含まれていた。今回の酉の市でも「はい、ご祝儀」と言って手渡すと、「いいんですか。ありがとうございます」と、ハッピ姿のお姉さんが嬉しそうな顔。聞けば、明治学院大学の学生だとか。「この店の熊手は番台に座っている女将さんの手作りなんですよ」と誇らしげだ。酉の市が終わると、今年も残り1か月。時は正確に刻まれる。(BCN社長・奥田喜久男)
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