BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『究極のテレビを創れ! ~感動に挑む絵づくり職人たち』

2009/10/07 15:27

週刊BCN 2009年10月05日vol.1303掲載

 「ものの原理は、発明した人に訊かねばわからない」というのが、取材生活 年のなかで得た教訓である──著者の麻倉怜士氏は前書きでこう述べている。こんなエピソードがある。ブラウン管の走査はなぜ画面の左上から始まるのかと疑問を抱いた麻倉氏は、「テレビの父」と称される高柳健次郎氏に理由を尋ねてみた。その答えは、「私が右利きだからですよ」。予想もしなかった回答に唖然。もし、高橋氏が左利きだったら、テレビは右上から走査していただろうというのである。

 テレビは、かつてのTele+VISION(遠くを観るための道具)から、人々に感動を与える「絵」を伝達するツールに変貌してきている。その裏には、画質にこだわるエンジニアたちの活躍があるのだ。

 テレビ画面が高精彩になるにつれ、絵づくりの巧拙が問われることになる。ここに〝職人〟の技が生きるわけだ。「感動を味わうためにはどうすればよいか。観る人の目の特性に合わせ、コンテンツ制作者の意図をどう汲み取るか。コンテンのメッセージをいかに精密に伝えるかが、これからのテレビの役割です」と語るのは、日本ビクターのエンジニアだ。パイオニアの技術者は〝非常識な黒〟が生まれた理由を明かす。パナソニックのエンジニアは、失敗の経験が階調数を増やすことにつながったと打ち明ける……。この本は、AV評論家・麻倉怜士が描き出す“画質戦士”たちの世界である。(止水)


『究極のテレビを創れ! ~感動に挑む絵づくり職人たち』
麻倉 怜士著 技術評論社刊(1580円+税)

  • 1