旅の蜃気楼

思いが込められた三冊の新刊

2009/08/03 15:38

週刊BCN 2009年08月03日vol.1295掲載

【本郷発】三人の知り合いが、この時期に単行本を上梓した。それだけでまずは幸せなことだ。この時期にというのは、景気縮小と出版不況を指す。この環境だからこそ幸せであり、実力が評価されている証である。

▼5月1日、オーム社刊。『クラウドコンピューティング――技術動向と企業戦略』。著者は森洋一氏。シリコンバレーテクノロジーリサーチャーが森さんの肩書きだ。週刊BCNに連載中の『Made in Silicon Valley』の執筆陣の一人でもある。森さんは三十数年間、日本ユニシスに籍を置いて、コンピュータシステムの世界を見てきた。「クラウドは時代の流れ」と指摘する。クラウドとは特定の技術や形態を指すのではなく、時代の要請を一身に受け止めて、これまでのさまざまな流れを吸収するものの総称だという。新旧の技術のフュージョン(融合)と言い切る。

▼6月8日、日経BP企画刊。『12賢者と語る 和らぐ好奇心』。著者は石黒和義氏。JBCCホールディングス社長。人は自分の中の自分を探す。自分がつかめているときは動きが滑らかだ。悩んでいるときは自分探しだと思っている。石黒さんは自分が会いたいと思う12人に会って、対談集を上梓した。巻末に「対談を終えて」がある。荒俣宏、及川茂、加護野忠男、金井壽宏、重森千、大鵬幸喜、徳岡邦夫、戸田奈津子、増井光子、宮脇昭、李遠明、冷泉為人。対談の折々に感じた印象を素直に言葉にしてみた、とある。人選の基準は、基本的に明るい/論理展開が明確である/フットワークが軽い/時流にかぶれない/どんな話でもついていける教養にあふれている/個人としてパワーがある/自然体である――以上の七つだ。ここに65歳の年輪の石黒さんが表現されている。

▼7月21日、生産性出版刊。『わが国金融機関への期待』。著者は富永新氏。NTTデータ経営研究所エグゼクティブ・スペシャリスト。富永さんと私はNY911の瞬間をマンハッタンの現場で共に目にした間柄だ。5月まで日本銀行金融機構局参事役を務めたITリスク管理のスペシャリストである。この時期に、51歳で、なぜ転職に踏み切ったのだろうかと、誰もが思う。決断。あのNY911の衝撃的な体験が、この10年の歩みに影響しているかもしれない。機会があったら聞いてみたいと思っている。(BCN社長・奥田喜久男)
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