旅の蜃気楼

語り継ぐべき“熱き思い”

2009/07/13 15:38

週刊BCN 2009年07月13日vol.1292掲載

【熊本発】熊本では夏目漱石が脈々と生きていた。タクシーに乗って30分間の観光を依頼した。「やはり、熊本城ですね。この道筋に武家屋敷がありました。この橋を渡るところから見えるのが熊本城です。見所は武者返しの石垣ですね。この川から筏で石を運んだようです。すばらしいでしょう」。説明はもちろん熊本弁である。

▼熊本大学は旧制五中だ。漱石はここで教鞭をとっていた。キャンパスには赤レンガ造りの校舎が残っている。その近くに、近代的な工学部百周年記念館がある。立派な講堂だ。1997年に百周年を迎え、2004年2月に完成したものだ。この工学部に大学院自然科学研究科がある。そのなかの「MOT特別教育コース」で7月3日、特別講演会が開かれた。テーマは「夢を追求し叶えるために!──プロフェッショナル・アントレプレナーを目指して」。私が基調講演を受け持った。パソコン産業の歴史を作った名だたる創業者の生き様と、モノづくりの若者たちにエールを送る「ITジュニア賞」の役割を、およそ150名の学生たちに披露した。熊本電波高専の学生20名も参加した。この教育コースとの縁は、データ復旧センター社長の藤井健太郎さんだ。藤井さんは定期的に熊本大学の学生たちに講義している。「とにかく、起業しよう。思い立ったら起業しよう。挑戦しよう」。藤井さんは岡山理科大学の学生時代に起業している。現在34歳。この間の行動を熱く語った。

▼「僕は年の初めに、五つのやりたいことを、トイレに書いて貼ります。こうしておくと、叶うんです」。叶うように考え続ける毎日だ。私との出会いもそのうちの一つだったのかもしれない。事実、こうして二人して、熊本大学大学院生に話をしている。さまざまな先達が活動して、デジタル社会の夜が明けた。若者に伝えることは山ほどある。講演が終わって学生たちと語らった。熱かった。起業家になるのはごく一部の人だと思う。そのわずかな人たちに熱い思いを語り継ぐべきだと思った。 (BCN社長・奥田喜久男)
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