旅の蜃気楼

剣岳に魅せられた男たち

2009/05/25 15:38

週刊BCN 2009年05月25日vol.1285掲載

【剣岳発】「誰かが行かねば、道は出来ない」――。6月20日、『劔岳 点の記』のロードショーが始まる。新田次郎の小説を映画化した作品で、日本地図を完成させるために測量をした人たちの記録だ。“命がけ”で測量した人たちと記さねば、彼らの偉業を正しく伝えることはできない。監督・撮影は木村大作。「伝説の活動屋」といわれるベテランの映像監督が、“剣”をどう映像に切り出すのか。剣岳は気をそそる山だ。岩肌は黒く、針の山のようにとげとげしくて、真っ青な空を背景にどすんと座っている姿が美しい。素人が撮っても剣岳はプロっぽい写真に仕上げてくれる。その山をプロが映すのだから、映像が楽しみだ。

▼剣岳に魅せられたカメラマンがいる。1950年生まれ、高知県出身の高橋敬一さんだ。1971年から剣御前小屋に勤務して、十数年。その間、剣岳を撮り続ける。カナダ移住を経て、89年から立山山麓の芦峅(あしくら)寺に居を移し、フォトギャラリーを開いている。ここには立山のご神体を祀る雄山神社があり、山岳信仰の匂いを今でも放つ姥堂がある。立山・剣岳はその昔、女人禁制だった。遠くに見える立山を仰いで、さまざまな思いを女たちはこの姥堂に残していった。高橋さんがかつて勤務していた剣御前小屋は、剣岳と立山のちょうど中間あたりに立っている。この小屋にたどり着くには、雷鳥沢坂を登ることになる。およそ2時間の登りだ。この登りはきつい。

▼久しぶりに雷鳥沢にテントを張った。ここは360度をぐるりと山に囲まれたテント場で、雪山の景色を味わうには最高の場所だ。今年の立山・剣岳は雪が少なく、岩肌がずいぶん露出していた。剣岳を右に見て、剣御前小屋から西に歩くと、奥大日岳、中大日岳、大日岳と続く。雪を被ると流線型の真っ白な山が重なり合い、歩くにつれてその姿が変わって、見ごたえがある。「写真で読む『劔岳 点の記』」と題した写真展が、5月30日まで有楽町の東京交通会館内の「いきいき富山館」で開かれている。興味のある方はぜひ。(BCN社長・奥田喜久男)
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