旅の蜃気楼

韓国のお寺で目にした「五体投地」

2009/05/18 15:38

週刊BCN 2009年05月18日vol.1284掲載

【ソウル発】ソウル市内にある曹渓寺を訪ねた。お釈迦様の誕生日を祝うお祭りの時だった。韓国の宗教人口の割合は、なんとキリスト教が最も多くて、29.2%。仏教は22.8%だ。最初にこの宗教分布を知ったときは驚いた。宗教は国の根幹だ。それがキリスト教と知って意外さを感じた。もちろん、お寺は残っていて、山の中腹に多い。これまで、いくつかを訪ね歩いたが、奈良や京都にあるような大きな存在感を示すお寺にはまだ出会っていない。仏教と政治のつながりは日本ほど深くはないのかもしれない。

▼お釈迦様の誕生日は、4月8日。太陽暦の日本ではその日を「花まつり」といって、お釈迦様の像に甘茶を掛ける。といっても、この程度の知識しかない。韓国の暦は旧暦だ。お釈迦様の誕生日の旧暦4月8日は、太陽暦でいえば今年は5月2日だ。その夜、ソウル市内をタクシーで移動していた。午後7時半頃だった。車窓からネオンサインを見ながら乗っていると、突然、建物の一角が提灯の光で異常に輝いているのが見えた。これは何だ!? 「運転手さん、ここで降ります」。そこは曹渓寺というお寺だった。闇に包まれた境内を見上げながら歩くと、提灯の赤や緑、青、黄色の光が目に飛び込んでくる。

▼お堂に入ってみた。金色の仏像が3体、並んでいる。金ぴかの仏像の前で、僧がマイクに向かってお経を唱えている。信者は思い思いの形で座布団に座って、数珠を持ってお経を唱えている。なかには会社帰りの人もいる。変に畏まった威厳がない。生活の断片にある、普通の空気が流れている。曹渓寺は曹渓宗の総本山だが、肩肘張らない空間を感じた。久しぶりに座禅を組んだ。ひとつ隣の座布団で、30代半ばの女性が無心に「五体投地」を繰り返している。1時間はとうに過ぎた。煩悩の数をはるかに越えているはずだ。何のための所作なのか。座りながら考えてみた。「五体投地」を目の当たりにしたのは初めてだ。この人は何年も続けているのだろう。美しい姿だった。(BCN社長・奥田喜久男)
  • 1