旅の蜃気楼
山とお茶席で感じた“気配”
2009/05/04 15:38
週刊BCN 2009年05月04日vol.1283掲載
▼樹林帯に朝の日差しが入る。一面が、水を含んだ、まだら模様の光景になる。きらきらして美しい。左手の方角で鳥の声がした。「キキッ」。その瞬間、亜熱帯雨林の気配を感じた。ボルネオ島にあるキナバル山を登った時の気配を思い出した。そんな気配はふとした時にやってくる。知り合いに誘われて、お茶席に出向いた時のことだった。お手前は裏千家。難しい作法はお許しを願って、和菓子と薄茶を楽しんだ。お茶席ではいろんな和菓子が出る。味わいは千差満別だ。いろいろな味から和菓子職人を勝手に思い描くのが楽しい。薄茶は目の前でお手前が始まっている。お茶はなんだか、空想遊びのようだ。
▼一通りの作法を終えて、しびれた足を戻しながら、その日のお道具を眺める。時代を超えて、生き残った道具に出会うのはお茶席の楽しみのひとつ。焼き物は好きだ。茶碗を持ち上げ、はるか時代を超えた人の手に、今を生きる自分の手を重ねるのは楽しい。脇のほうに、茶せんが束ねてあった。「由緒あるものですか」「裏千家宗家の作った代々の茶せんです。並べてみますか」。まずは利休が作ったもの。これが2代目の宗淳。ずらり千利休から現在の宗家まで16本が並んだ。窓から差す明かりで茶せんに陰影ができた。徳川は140年前に第15代で時代を終えた。なんと短命な将軍たちがいたことなんだろうか。千利休、1522年生まれ。徳川家康、1542年生まれ。裏千家は脈々と続いている。時代の気配をふと感じた。(BCN社長・奥田喜久男)
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