旅の蜃気楼

“あらかん”は恥をかき、汗もかく

2009/02/23 15:38

週刊BCN 2009年02月23日vol.1273掲載

【本郷発】「京の五条の橋の上、~牛若めがけて切りかかる」。ずいぶん古い歌ですが、歌えますか? 最近の週刊BCNを読んだら、“アラカン”という言葉が目についた。僕の頭にはとっさに俳優の“あらかん”が思い浮かぶ。牛若丸とは、後の源義経だ。鞍馬山で10年ほど修行した義経はここで鞍馬の天狗から兵法を習った。僕にとっての“あらかん”は映画で鞍馬天狗を演じた「天狗のおじさん」こと、嵐寛寿郎なのだ。

▼それがどうした巡り合わせか、最近の“あらかん”は「アラウンド還暦」なのだそうだ。1月に還暦を迎えたばかりの身にとって、“あらかん”は自分のことなのである。還暦は通過儀礼と思っていたが、いざ60歳を迎えて、いろいろな方々に祝福をいただいた。それをきっかけにさまざまなことを考え始めた。少しキザだけど、「十干十二支をしっかり生きた。よし」という気分が充満している。あらかん仲間は一様に、「ここからが、初めの一歩」という。その仲間に共通しているのは「若い人を育てよう」という気持ちが強くなったことだ。

▼育てるという言葉の解釈はとても難しい。これもキザだけど、「育てる」とは自分の生きる姿を存在させることだと、僕は思っている。掲載媒体はいくつか変わったけれど、週刊でコラムを書き続けて35年になる。物書きの師匠である故・小林一作氏に教えてもらったのが「モノを書くとは恥をかくこと」であった。その後、事業の苦しい時に小林夫人にいただいた言葉が「生き様が死に様。目の前にある一つ一つを片づける」だ。さて、“あらかん”は2月14日に舞台で恥をかくことになった。根津町内の「ふれあい館まつり」の演し物で、チェロの還暦デビューを果たした。習い始めたのは2005年7月9日、レッスンはちょうど100回を迎えた。その記念もあって、師匠の与縄美也子先生の一押しで、スメタナの『モルダウ』を弾いた。額に汗して弾いた。弟子仲間が応援に駆けつけて、みんなで祝ってくれた。嬉しかった。新しい一歩を踏み出した。できばえは…? 60にして、ようやく惑わず。(BCN社長・奥田喜久男)
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