旅の蜃気楼

月山の贈り物は“よく当たるおみくじ”

2008/09/22 15:38

週刊BCN 2008年09月22日vol.1252掲載

【山形発】「純米酒『十四代』の旨さは格別だ」と、先週に引き続き同じ書き出しで始める。蔵元の高木酒造から特別の計らいがあって、それに応えるというわけではない。この蔵元は蔵を見せない、酒を売らない、媚びない。実に立派な“三ない”蔵元である。前号で最寄り駅の表記ミスをした罪滅ぼしだ。蔵元は山形市から最上川を北に下って、川沿いに形成された山形盆地がちょうど狭くなった辺りにある。蔵元の所在地は「村山市」だ。そこから西の方角に標高1462メートルの葉山がある。その尾根は名峰・月山に連なる。宗教的には出羽三山の主峰で羽黒信仰のシンボルの山だ。この山の水が銘酒を育むと前号で書いた。

▼鶴岡バスセンターから羽黒までバスに乗る。下車すると、五重塔を左に見て、長い石段を登る。真夏でも冷んやりするから快適だ。階段を登り詰めたところが羽黒山神社だ。この先を8時間ほど登ると、頂上の月山神社に行き着く。今は八合目までバスが走っているから、お気楽だ。ブナ林の道をバスはくねくね走る。窓の外を見ると、折りなす山並みから続く集落の光景が美しい。さらに高度を上げると航空写真のように見える。道幅は急激に狭くなる。いつの間にか乗客も行き交う車をついつい気遣う。八合目で下車。ゆっくり3時間かけて、頂上に着く。そこが月山神社だ。

▼長いこと月山に登り続けると、山の神も粋な計らいをしてくれる。出会いは山形の旨い酒だけではない。毎年、決まって引く『おみくじ』だ。これが、ぴたりと当たる。不気味なくらい的中する。あまりに的中するから、不思議な気分になってしまう。『おみくじ』が合っているのか、それとも『おみくじ』に自分を合わせるようになったのか。もう長い間、この繰り返しになっている。1995年の大晦日、除夜の鐘を聞いて都内の大塚にある吹上稲荷神社に初詣をしたことを思い出す。おみくじは「凶」。年の初めからいやだな、と思って、翌日は新井薬師で引いた。またまた「凶」。これを境にして、おみくじはもう引かない、ただし、月山神社だけは別と決めた。以来、月山の『おみくじ』に従っている。ありがたいし、気楽といえば気楽だ。(BCN社長・奥田喜久男)
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