▼「勤労教育」と称して農業体験学習を行う小中学校がある。栽培する苦労や収穫の喜びなどを味わいながら勤労の大切さを知る学習だ。この教育に取り組む中学校を取材した際、先生が「子どもたちの本心を知るのは大変」と嘆いていた。苗を植え、半年にわたって水をやり収穫したあと、感想文を書かせると「模範的な作文」が寄せられる。ところが、作文を書かせた当日、家庭に持ち帰るはずの収穫作物の多くが、通学路に投げ捨てられていたのだ。

▼6月8日、東京・秋葉原で7人もの犠牲者を出した凄惨な無差別殺害事件が起きた。容疑者は殺傷までの経緯を携帯サイトで刻々と綴るなかで、「いいヒトを演じるのは慣れてる」と吐露している。先に紹介した「勤労教育」を受けた子どもたちも然り、「いいヒトを演じ」先生や親を欺いていた。最近の若者は「出る杭は打たれる」のを恐れて、自我を押し殺して生きる術を身につけてしまっているようである。

▼「秋葉原事件」が起きる2日前、有害サイト規制法案が衆院を通過した。言論統制に繋がらない形で「学校裏サイト」など犯罪や自殺を誘引する情報サイトを規制することに賛成だ。インターネットが登場してまだ20年程度。表現力に乏しい日本人が双方向の良い関係を築くには、ネット上の情報交換が役に立つこともあるはず。もしネット社会が成熟していたならば、今回の容疑者が開設したサイトに訪れたヒトが事件を防げたかもしれない。