旅の蜃気楼

五月の根津は花盛り、人盛り

2008/05/05 15:38

週刊BCN 2008年05月05日vol.1234掲載

【根津発】しろ、あか、ももいろ。躑躅(つつじ)の花の色を表すのは難しい。根津権現の境内は今、まさに色とりどりだ。GWの根津は躑躅の花とそれを観る人の花盛り。巣鴨のとげぬき地蔵の風情よりは一世代若い人たちで賑わう。上野・不忍池から根津、千駄木、駒込、大塚、護国寺に延びる通り沿いには、しっかり下町が根付いている。なかでも根津界隈の趣は格別だ。

▼通りから一本裏の路地沿いを歩くのが、渋いコースだ。東京メトロ千代田線の根津駅下車。千駄木に向かう前方の改札を上がると、不忍通りと言問通りの交差点に出る。“谷根千(やねせん)”はこの界隈から始まる。スーパーの赤札堂を右前方に見て、信号を渡る。目の前に牛丼の吉野家がある。匂いを嗅ぎながら、左に店をやり過ごして、一本目の路地を左に曲がる。あるわあるわ、居酒屋、食堂、銭湯、クリーニング店、八百屋、電気店。花屋もある。みんな小さい規模だから見過ごしてはならない。5分もかからずに、通り過ぎるこの路地が“谷根千”だ。このような路地が幾筋もある。だから楽しい。本郷の山から東大生が、上野の山からは芸大生が下りてくる。なんだか猿山のような表現だが、きっと昔は本物のお猿が川遊びに来たのではないだろうか。どの家も小さくて、ひっそりしている。根津の町家といってもよいだろう。最近は古い家を改築したお店が増えている。これが、なかなか“ナイス”なのだ。先週も古い町家がTシャツ屋になったのでのぞいてみた。なんとも不思議な感じが漂っている。だって、最近まで民家だったんだから。

▼根津は権現さんばかりではない。神社の近くに根津教会がある。1919年に建てられた古い教会だ。大切に手入れしながら使い続けられている建物だ。根津の交差点から芸大方向にゆっくり5分ほど歩く。やはり路地に入る。石造りの蔵を改造したうどん屋・釜竹がある。以前、この欄で書いた清酒『十四代』はこの店にある。それも8種類ほどあるから、少しずつ舐めても、店を出るころにはふらふらだ。根津は酔える町なのだ。根津自慢はまだあります。根津の『権現太鼓』もご覧ください。ますます酔えます。(BCN社長・奥田喜久男)
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