旅の蜃気楼

飛騨の荘厳な祭りに酔いしれて

2008/04/28 15:38

週刊BCN 2008年04月28日vol.1233掲載

【飛騨発】誰が、いつ、考えついて、この祭りを構成したのだろうか。『飛騨古川の起こし太鼓』。4月19、20日にかけて参加した。祭りは毎年この日に開催される。今年は土日だったため、観光客で賑わった。JR高山線・飛騨古川駅に降りた。駅舎にはそれぞれの匂いと光がある。改札は2つ。20人も入れば満員になる広さのたたき。小さな売店が左側にあって、その前にベンチが2つ。ベンチには清潔そうな座布団が敷いてあり、この街はきっときれいだろうなと感じながら、外に出た。

▼飛騨市の人口は2万8935人。平成16年に古川町、河合町、宮川町、神岡町が市町村合併してできた市だ。市庁舎は旧古川町にある。神岡町には東大名誉教授の小柴先生がノーベル賞を受賞するニュートリノの存在を計測したスーパーカミオカンデがある。神岡鉱山の坑道を利用した施設だ。最近ではこの鉱山跡地に、大型のデータセンターを作る計画もある。かつての鉱山の街は産業復興に向けて動き出している。

▼起こし太鼓は気多若宮神社の境内で19日夜9時に始まる。桜の花が満開だ。薄いピンク色がライトに映える。その下で、起こし太鼓の宮だし神事の祝詞を聞いた。境内には裸の若衆たちが集まっている。小さな太鼓を真ん中にくくりつけた3メートルほどの丸木をまっすぐに立てる。若衆がその上にお腹を乗せて飛行機の姿になって手足をぴんと伸ばす。回転もする。熱気が上昇する。この熱気とは別に神事は人垣の向こうで静かに進む。30分ほどたって宮だしが始まった。80センチの太鼓がやぐら台にくくりつけてある。2人の若衆が背中合わせで跨いで座る。バチを高々と掲げて太鼓を交互に打つ。静かに、大きく打ち鳴らす。やぐら台では太鼓の前後を年寄り衆が固めている。静かにゆっくり両腕を天に伸ばしながらスクワットを繰り返す。声も出している。この声に混じって太鼓の音が「ズシーン、ズシーン」と響く。細い道をやぐらは動く。静かさと激しさが混ぜこぜになっている。勇壮という言葉で表現しよう。威厳すら感じた。起こし太鼓は深夜1時30分過ぎに終わった。祭りの若衆と観客の境がなく、双方混ぜこぜに揉まれながら宮だしが始まる。一見の価値がある。(BCN社長・奥田喜久男)
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