旅の蜃気楼

桜咲く、セカンドライフの花開く

2008/04/14 15:38

週刊BCN 2008年04月14日vol.1231掲載

【本郷発】桜の花びらが川面をピンクに染める。「ほんとにきれいなんですよ」。エイデンの本部を訪ねた時のことだ。名古屋駅から、あおなみ線に乗って、荒子川公園駅で下車。駅舎を出て、川沿いの桜並木に沿って歩くとエイデンの社屋に着く。3月27日は、五─六分の咲き加減であった。温暖化のせいか咲くのが早くなったようだ。エイデンの応接室。応対してくれた女子社員が弾んだ声で「川面が、一面にピンクに染まるんですよ」。その輝いた顔から、美しい情景は十分に伝わった。エイデンは今年の7月23日に創業60周年を迎える。

▼人間で言えば60歳かぁ、還暦だぁー、と繰り返し記すほど、今年は特に、この節目を深く味わっている。人ごとのように思っていた還暦が自分の仲間のこととなると、なんとなくそわそわし始める。身近な人が組織を卒業し始めたからだ。3月31日午後4時50分、和歌山県立田辺工業高校の平松芳民校長は先生たちの拍手に見送られて、校門を後にした。「これですべてを終えた。もう学校の敷地内には足を踏み入れない」。そう覚悟して校門を出たという。35年間の教員生活に終止符を打った。自宅に帰った。奥さんが出迎えてくれた。「ごくろうさまでした」。先生の目から滴が流れ落ちた──数日後、4月4日に平松先生と面談したとき、そんな話を聞いた。話は生徒との触れ合いのことで持ちきり。その夜の宴席は実にさわやかだった。

▼平松先生と最初に会ったのは2005年5月26日のことだった。「BCN ITジュニア賞」の趣旨を聞くために、本郷のBCNオフィスを訪ねてくださった。こちらの説明に、「わかりました。趣旨はよく理解しました」といって帰られた。その後、8月10日にはこちらから田辺市の学校を訪ねた。再度、BCN ITジュニア賞の趣旨を述べ、受賞校として「BCN AWARD 2006」の会場に生徒たちを出席させていただきたいと、お願いした。夢中で話をしたものだから記憶が定かではない。「わかりました。子供たちを送り出します」。この一言から、BCN ITジュニア賞は始まった。子供は大人になる。大人はいつか還暦を迎える。さて、セカンドライフをどう生きましょうか? 桜の花は来年も咲く。(BCN社長・奥田喜久男)
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