旅の蜃気楼

友との重い約束、福知山へ

2008/01/28 15:38

週刊BCN 2008年01月28日vol.1220掲載

【本郷発】大学時代の後輩・大島くんから連絡が入った。東京に出るから久しぶりに会いたい、と。10年ぶりのことだ。昨年11月、御茶の水にある山の上ホテルで会った。「久しぶりだね。何を食べようか。ここのてんぷらのお店は六本木のミッドタウンにも店を出したよ。ステーキも美味しいよ」「全部食べたいですね。でも和食がいいです」「いっぱい、やるかい」「もちろん」「ちょっと、痩せたね」「4年半前に病気したから。手術しましてね」「何の手術なの」「胃がんなんですよ」「ずいぶん平然として言うね。再発の心配は」「もう大丈夫のようですわ」。10年分を3時間で一気に話し続けた。

▼元伊勢は「もといせ」と読む。京都府福知山市の北部にある神社の名だ。三重県伊勢市にある伊勢神宮の“元”に当たる神社なのだ。「ほんとにそんな神社があるのだろうか」。神道を学んでいた学生時代からの疑問であった。一度、訪ねてみたいと思い続けていた神社なのだ。「そういえば、大島くんは福知山の出身だよね」「そうですよ。いま、福知山に住んでいます」「確か、福知山に元伊勢という神社があるよね」「あります。大江山に登るときにいつも神社の前を通りますよ」「そう、ほんとにあるんだ。その神社って、いったいどんな神社なの」「どんなって…」「伊勢神宮とはどんな関係があるの」。彼も神道を学んだ仲間だから、話は盛り上がった。日本の古代史の秘密を探るといった熱の入れようだ。「一度、行きたいんだけど」「いつでもおいでください。ご案内しますよ」。

▼その大島くんから12月26日の夜9時13分にメールが入った。ちょうどタクシーに乗って腰を落ち着けたところだった。「申し上げにくいのですが、先輩との約束、果たせそうになくなりました。病気が再発し、もう長くないことになりました。こんな話は本来ならお耳に入れるべきではないのですが、約束の事もあり、ずいぶん悩みましたけど、黙って約束を反故にしたくないと思い、連絡させて頂きました。もうしばらくは、身体も動かせそうなので、今の内にと、家内と旅に出ました」。なんと重いメールなことか。窓を開けた。顔がヒヤッとした。「やりきれないな」。見上げると、きれいな月が出ていた。そうだ!福知山へ行こう。

▼1月5日の京都駅はとても込んでいた。初詣での賑わいだ。福知山に行くには、京都駅の“ゼロ”番ホームから列車に乗る。同じホームから関空行きが出る。乗り違えたら大変だ。(BCN社長・奥田喜久男)
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