旅の蜃気楼

月山に魅せられて16年

2008/01/07 15:38

週刊BCN 2008年01月07日vol.1217掲載

【本郷発】おみくじを信じていますか?お正月になると、神社をお参りして、おみくじを買う。じゃらじゃらと筒を振り、細い竹の棒を1つ引いて、「18番です」。わくわくどきどきしながら、その番号のおみくじ札をもらう。

▼山形に「月山」という山がある。縁あって、1991年以来、毎年、8月13日の夜7時に山頂に立っている。「柴灯祭(さいとうさい)」に参加するためだ。古くからあるこの祭りは、出羽三山神社に納められた1年間の卒塔婆を、出羽三山の山伏と神職が1984メートルの山頂で焚き上げるというお祭りだ。山頂には卒塔婆がうず高く積まれ、それに火を放つ。炎は闇夜に燃え上がり日本海からの風に吹かれて、さらに勢いを増す。見上げると満天の星が輝き、山すそには、鶴岡、酒田、新庄、山形の街の灯が見える。山伏は祝詞と般若心経で、先祖の霊を慰める。自然と人が織りなす祭りに毎年、感動している。

▼長い間、この祭りによくぞ通いつめたものだ、と自分では思う。ところが、60年近く毎年、参加する人がいるから驚く。仙台に住む青木さんだ。16歳の時、「身体が弱くて、祈願をするために」親に連れられて登る。おかげで健康になった。そのお礼参りを60年近く続けているというわけだ。青木さんとは、毎年8月13日、山頂の小屋で出会う。その日に行けば、会える。もう16年間、毎年顔を合わせている。会えば、1年間にあったことをお互いが語り合う。その夜は「柴灯祭」に参加し、翌日、それぞれ、家路につく。それを16年間繰り返した。

▼なぜこんなに、続いたのだろうか。不思議だ。いつの間にか、おみくじを引くのも恒例になった。今ではこのおみくじを指針としている。2007年8月13日のおみくじは“末吉”だった。「まじめに努力を重ねても今すぐに成果が出てこないという苦しい時…。ここで焦ればそれだけ抜け出すのが遅れます」。なるほど、思い当たる節がある。そして「腰を据えて将来計画構想を練る」と続く。年々、月山のおみくじに心が引っ張られるようになってきた。年齢のせいばかりではないと思う。さて、今年のおみくじは「大吉」か。大きな夢をたくさんもとう。(BCN社長・奥田喜久男)
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