旅の蜃気楼
神岡の山に潜む最先端科学の世界
2007/11/26 15:38
週刊BCN 2007年11月26日vol.1213掲載
▼神岡は市町村合併で飛騨市となった。奈良時代から採掘が始まった亜鉛鉱山だ。イタイイタイ病の公害で、最初に原告側が勝訴した判例として名前が残っている。2001年6月に採掘を中止。最近の神岡はカミオカンデで有名だ。小柴昌俊先生がノーベル賞を取ることになったニュートリノの検出装置が、神岡鉱山の奥深くの廃坑に設置されている。浜松ホトニクスが苦心の末に完成させた光電子増倍管の並んだ検出装置の水槽を覗き込むと、吸い込まれそうになる。音も光もない深い世界だ。神岡は科学の最先端を発見したのだ。
▼その神岡に新しい友人ができた。ソフト開発者の尾内治良さんだ。11月13日、携帯メールが入った。「神岡にとって、ビッグニュースです。実現しました」とある。かなりな興奮度合いは伝わるが、内容の説明がない。翌日の報道で知った。「地下の坑道跡に事業費450億円をかけて情報処理拠点を設置する」。サン・マイクロシステムズが中核だ。富士ゼロックスなど11社が参加する。地下にデータセンターを作る大型プロジェクトだ。
▼神岡のある奥飛騨の山並みは美しい。なかでも岐阜県一高い山がある。その昔、播隆上人が開山した笠が岳だ。その頂上から、沈む太陽を背に受けて、東を見る。雲間に虹に囲まれた自分の仏の影がある。ブロッケン現象だ。ずーっと遠くに槍ヶ岳が見える。何と神々しいことか。この山の地下深くにITシステムが眠る。神岡、旅、山、IT、虹、古い友達、新しい友人……。明日はどんな世界が待っているのか楽しみだ。(BCN社長・奥田喜久男)
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