旅の蜃気楼

イエメン紀行(下)── ファンタースティックなおやじ

2007/07/30 15:38

週刊BCN 2007年07月30日vol.1197掲載

 旅の楽しみのひとつは、現地の人と触れ合い、風習や考え方の違いを肌で感じること。わが旅好きスタッフ・吉野理(まこと)も存分にそれを堪能している。(BCN社長・奥田喜久男)

【イエメン発】旅の目的は人それぞれ。行きたい街に行き、見たいものを見ることは、何物にも代えがたい経験だ。しかし、観光客の目で景色を眺めること以外にも、そこらじゅうに面白いものは転がっている。

▼古代のダムとシバ王国の遺跡で有名なマーリブ(イエメンの東南部)を訪れるときに、ドライバー兼ガイド兼護衛をしてくれたヤッヘルは印象深い人物だった。年齢は55、6歳で、同い年の奥さんと、なんと23歳くらいの奥さんがもう一人いるそうだ。「おとといは古女房とで、昨夜は新妻で…、寝不足だ」みたいなことを言っていた。武装地帯に銃を持って向かうというのに、ゆるい。

▼マーリブでは過去に外国人旅行者が誘拐されたこともあり、銃を持った護衛についてもらいながら回らなければならない。実際、車で移動中にパンッ!パンッ!と音が聞こえたこともあった。そのとき彼は「カラシナコーク(銃のことをこんな感じの言葉で発音していた)、ファンタースティック!!」なんて叫んでいた。指差された方向を見ると、確かに砂煙が上がっている。本当に銃声か?っていうくらいにのんびりしている。

▼彼にとってのファンタスティックの対義語はロバだ。英語の「Donkey」は日本語で「ロバ」ということを知っていて、いいことがあると「ファンタースティック!」、よくないことがあると「ローバ!」。なぜロバなの?。途中の検問所で彼は兵隊さんから銃を受け取り、「この銃を持って、記念撮影しないか」みたいなことを持ちかけてきた。ここでもゆるさは相変わらずだ。車中でも、僕は助手席に座ったのだが、彼は銃を二人の間に立てていて、カーブするたびにそれが倒れてくる。そのたびに立て掛け直す。寝かせりゃいいじゃん!

▼現地に向かう途中、彼は「今日、お前は俺の息子だ」と言ってくれた。ありがたいんだけど、僕より年下の奥さんがいる親父かぁ…。そりゃ、ファンタースティックだ。[つづく](商品企画グループ・吉野理)
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