旅の蜃気楼

アジアで芽吹くIT界のあすなろ

2007/06/11 15:38

週刊BCN 2007年06月11日vol.1190掲載

【台北発】台湾行きのジャンボジェット機の2階席はガラガラだった。「かつては満席でごった返していたのになあ」と、IT業界の年寄りコラムニストはつぶやく。6月4日、19時30分成田発のEG-209便に乗った。目的は『COMPUTEX TAIPEI 2007』の視察だ。最近のアジア情勢は中国の話題が中心で、日本からの参加者は極端に減っている。それでも1333社が2926ブースを出展した。参加者は海外から3万2000人、国内は10万人だ。会場は確かに以前と同様に、賑やかなブースができている。しかし、人の数は少ない。熱気がない。だからといって、台湾のIT企業の力が減衰したとは言い切れないようだ。

▼台湾在住でNOAHの社長・為廣暁雄さんに話を聞いた。かつて大塚商会で活躍した人物で、現在、台湾のIT業界で成功者になっている。彼は現状についてこう話す。「台湾の企業力が衰えているわけではない。中国大陸のIT企業には台湾資本が多い。300万人ほどの台湾人が大陸に移ったともいう。台湾の総人口は2300万人。そのうち、300万人といえば、台北市の人口に匹敵する。政治と経済は別次元の話だ」。フェア会場は、台湾の人たちのお祭り的な雰囲気がある。だが、商談は開催前日までに終了しているらしい。商談総額は125億米ドルを推定している。秋商戦の製品だ。

▼中国の市場で起業するのは台湾人ばかりではない。上海で起業した日本の青年と会った。山田祐三さんだ。彼は岡山が本社の周辺機器メーカー、サンワサプライの社長・山田哲也さんの二男だ。27歳。「父である社長のアドバイスもあったが、自分で上海進出を希望した」。5月から上海でスタート。4名で立ち上げた。北京、重慶、成都、広州の市場をカバーしている。「私以外は全員中国人」。「5年後の夢は?」「サンワサプライの売り上げと肩を並べることです」。同席していた山田社長は「そんなに早く成功してもらっては、困る」と、うれしそうに太い眉を動かす。若い世代が明日を目指し始めた。58歳の年寄りコラムニストは、ほうほうの体で会場を後にした。市場も世代も新しいステージでショーが始まっている。頼もしいではないか。(BCN社長・奥田喜久男)
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