旅の蜃気楼

ネット社会が生む富の偏在

2006/11/06 15:38

週刊BCN 2006年11月06日vol.1161掲載

【本郷発】一度は会ってみたいと思う人がいる。その一人にジョージ・ソロス氏がいる。久しぶりに氏のインタビュー記事を見て、やはり会いたい思いが募った。それは日経新聞10月16日の国際面に掲載された記事だ。多くの読者はごらんになったと思うが、記事を抜粋しながら、会いたい理由を追求してみたい。ソロス氏は言う。「グローバリズムは世界の経済成長に寄与したが、富の偏在も生んだ。自由に移動する資本は規制などをくぐり抜けられるが、労働者はそうではない」。彼は1930年8月12日生まれだから、76歳になる。世界の金融業界を驚かせた『ポンド危機』は1992年9月17日だ。たった一人の動かす資金力がポンドとイングランド銀行を打ち破ったのだ。

▼その事件を境に、ヘッジファンドとグローバルについての話題が世間を賑わすようになった。私自身は当時、この出来事は金融業界特有のものと決め込んでいたが、よくよく考えてみれば、ネット社会の到来を象徴する事件でもあった。資金はネットインフラを使えばいともたやすく移動できる。クリック1回でお金は世界中を瞬時に駆け巡る。今では、インターネットでのキャッシングや株式投資が当たり前になっている。考えてみれば、資金の情報はビットだ。お金こそがネット社会の主役といえる。株のネット取引はまさにそれだ。今や個人が14年前のヘッジファンドと同じことをやってのけている。それも普通の人たちが手がけている。今ではそれが常識だ。

▼ソロス氏の言うとおりであれば、資本を駆使する人は今後、さらに力を持ち、移動性のない労働者とはますます富の差がつくという。そのとおりに、ネット社会は、何人ものソロスを生むことになる。ソロス氏はさらに続ける。「政府や国際機関は市場の限界を補うという役割を必ずしも果たしていない。リスクを取ってきた起業家が慈善活動に参加することで、問題解決へのヒントを与えられるケースも出てくる」。マイクロソフトのビルゲイツ氏は大型の財団を設立した。政府機関の意図でなく自分の意思で財団をつくった。

▼聞きたいのはそこだ。社会の役に立つ自分の意思を芽生えさせるには何が動機として働くのかである。(BCN社長・奥田喜久男)
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