旅の蜃気楼
タクラマカン砂漠のドライバー
2006/09/18 15:38
週刊BCN 2006年09月18日vol.1154掲載
▼車の外は40度を超す気温。湿度ゼロ。空には雲ひとつなく、砂だらけ。これが砂漠の暑さなんだ。半端じゃない。「アツイ」。焼け焦げる。フロントガラスにはその日差しが入り込む。ハンドルを握る彼の両腕は、日焼けで赤銅色だ。車内は冷房が効いている。だが、運転席には直射日光が差し込むから、汗だくだ。パワーに溢れた運転手は、時々、自分の頬を平手打ちする。「ピタッ、ピタッ」。痛いだろうに、と思ったが、乗客の身となればこれで一安心だ。どうぞ、どんどん“ぶって”目を覚ましてください。
▼タクラマカン砂漠のど真ん中を南北に縦断する道を「砂漠公路」という。ブギュウルからニヤの間、522キロの道だ。この間、“砂”しかない砂漠が続く。ダイナミックな風景だ。見飽きることがない。ところが人とは贅沢なもので、8時間以上も同じ光景が続くと、見慣れてくる。新鮮さが薄れ、車の心地よい揺れもあって、乗客も運転手も「スヤスヤ」眠くなる。居眠り運転は多いと見えて、対向車の運転手はお互いの様子をじっと見ている。対向車線で砂漠に頭を突っ込んだ大きなトラックが荷物を降ろしている。山のような荷を見ると、他人事ながら気が遠くなる。「あの車、居眠りだよ」と運転手が眠った身振りをする。物資輸送の運転手は経済発展のヒーローだ。彼らが町に潤いをもたらしている。運転手が頼もしく見えた。
▼そうなんだ。車を止めて吸う一服と、人にタバコを勧めてはしゃぐ短い時間は、彼の切実な眠気覚ましの行為だったんだ。帰国の別れ際、彼がタバコを1箱くれた。封が開いていた。中に100円ライターがきれいに納まっていた。「なんて気の利くヤツなんだ」。頂戴した『紅河』はそのまま、部屋の棚に置いてある。さて、中国の旅はまだ続く。(BCN社長・奥田喜久男)
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