旅の蜃気楼

血の涙を流せ

2006/06/26 15:38

週刊BCN 2006年06月26日vol.1143掲載

【ドイツ発】目の前のピッチで3点目が入った。流れるようにして入った。そのとき選手は棒立ちになった。サポーターは呆然となった。オーストラリアの選手とサポーターは競技場の空に向けて勝利の“雄たけび”を上げた。負けることがこんなに惨めだとは予想をしなかった。ある解説者は負けることを「血の涙を流せ」と書いていた。ワールドカップは国旗を背負った格闘技だ、と感じた。

▼日本対オーストラリア戦は現地時間12日の午後3時に開幕した。暑さは異常で、肌に突き刺ささる。帰り際、肩が触れた勝利者が言った。「この暑さは僕たちにとってスタンダードさ。試合は互角だったね」。むっかー。情けないけど「ネクスト」というのが精一杯だ。日本人サポーターは一生懸命、応援した。でも負けた。負けると力がわいてくるのも不思議だった。それが「血の涙を流せ」ということなんだ。

▼同じドイツでもうひとつのワールドカップがあった。「ロボカップ2006ドイツ世界大会」だ。14-20日、ブレーメンで開幕。日本で始まったこの大会は10年目になる。世界から30か国以上が参加した。時は一挙にワープして、2050年7月9日。FIFAが主催する第29回ワールドカップは最終戦を迎えた。ブラジル人チーム対日本ヒューマノイドチームの対戦だ。会場は第9宇宙ステーション。南米の上空380キロメートルに浮かんでいる。昨年完成したばかりの新国家だ。会場内はブラジル人が奏でるサンバの音で破裂しそうだ。日本チームのヒューマノイド・サポーターは佐渡から持ち運んだ大太鼓で負けじとばかりに、力強い連打で競技場の空気を震わせている。なかなかやるもんだ。サポーターの競演は互角の勝負だ。ブラジルチームのサポーターの多くは人間だ。日本のサポーターはヒューマノイドのなかに人間の影がわずかに見える程度だ。ヒューマノイドがW杯に参加するようになって20年になる。当初はなかなか勝てなかった。今ではスペックを制限するほどに強い。あと10年もするとヒューマノイドの審判員も誕生する。技術開発に誇りを持つ日本人は生産現場のロボットとしてヒューマノイドを育てた。さて勝敗はいかに。(BCN社長・奥田喜久男)
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