旅の蜃気楼

130年の時が熟成させた企業文化

2006/06/19 15:38

週刊BCN 2006年06月19日vol.1142掲載

【瀋陽発】企業には社風がある。それを企業文化ともいう。もっと深い意味で企業にも人間に似た遺伝子というものがあるのかもしれない。この1年の東芝を見ていてそう感じた。東芝は1875年7月1日に創業した。以来、130年を生き抜いている。創業者田中久重が、銀座煉瓦街に店舗兼工場を開いたのが始まりだ。東芝は昨年7月からこの6月末まで「創業130周年の大イベント」を展開している。その一環で東芝が発信したメッセージの中から同社の歴史を知った。

▼東芝のこの1年間を振り返ると、ウエスチングハウスの原子力発電事業の買収が記憶に残る。中国でつい先ごろ開いた「130周年記念、東芝展示会」も見逃せない。中国の歴史は4000年だ。それからすれば、130年はほんのわずかな年数に過ぎないが、一企業の継続年数とすれば、たいしたものだ。ベンチャービジネスが華やかな話題をさらう昨今にあって、こうした企業の底力を感じさせるメッセージに感動もした。これは日本的な遺伝子かとも思った。

▼北京で130周年の展示会を開いた翌日、東芝ソリューション(TSOL)は瀋陽で東軟集団と10周年の開発提携を祝う会を開いた。IT主要メディアの記者を北京から招くほどの会だ。東軟集団は中国で最大のソフト開発会社だ。15年前に劉積仁総裁が創業した。東北大学の先生で、教え子と一緒に立ち上げた。10年前、東芝現会長の岡村正さんが北京で劉総裁に会う。岡村さんは劉さんを見込み、ソフト開発の発注を心に決める。その意向を後のTSOL初代社長・河村進介さんが受けた。

▼河村さんは祝賀会で挨拶した。「中国に仕事を発注することを心に決めた。劉さんに決めた。社内の根回しから始めた。が、工場の反対を受けた。それは品質の低下を懸念するからだ。そこで相互に人を受け入れた。信頼関係から築き始めた。今、東軟集団のTSOL開発者は1000名ほどもいる。本日の祝賀会には相談役として参加した。感無量です」。トップの意思が時間の熟成を経て、味が完成する。じっと熟成するのを待つ。その忍耐が遺伝子かもしれないと思ったのだ。東芝が行ったこの1年のイベントは、社内に向けてのメッセージだったのかもしれない。(BCN社長・奥田喜久男)
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