旅の蜃気楼
21世紀の“嘆きの壁”
2006/05/22 15:38
週刊BCN 2006年05月22日vol.1138掲載
▼公園の西側に沿って南北に走る道がある。高級品店の並ぶ五番街だ。歩きながら、ショーウインドウを冷やかす。店の中を窺うが、客の姿はあまり見かけない。売り上げはどうか。大きなお世話だ。五番街は真っ直ぐ南に伸びている。行き着いたところに世界貿易センター(WTC)があった。2001年9月11日を境に景色が一変した。WTCが2棟とも崩落して地中に大きな穴ができた。それを「グランドゼロ」という。あの出来事から4年8か月が経過した。マンハッタンには世界中の人が集まってくる。ブロードウェイでミュージカルを見たい、自由の女神を一度みたい、NYは世界の憧れの街だ、と思ってやってくる。ところが、9.11から人は「グランドゼロ」を見るために集まってくる。修学旅行のような光景も見た。全米から子供たちもやってくる。それは広島の平和記念資料館のようだ。
▼「グランドゼロ」には「フリーダム・タワー」が建つ。4月27日に着工した。高さは541メートルで全米一。WTCより100メートルほど高い。なんとも怯まない姿勢だ。ビルは2011年に完成する予定。そこは再び、あこがれの街が再現されるのだろうか。今はまだ「グランドゼロ」に大きな穴が開いている。街は21世紀版“嘆きの壁”といった観光地と化している。以前のような“憧れ”ではないが、人を引きつけずにはおかない地、と感じた。(BCN社長・奥田喜久男)
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