旅の蜃気楼

新たな「師」と出会えた瞬間

2006/02/27 15:38

週刊BCN 2006年02月27日vol.1127掲載

【本郷発】新潮社が発行する『フォーサイト』を愛読している。熟読ではないが、毎号ページをめくって、気になる記事に目を通す。以前は成毛眞さんがコラムを書いていた。軽妙なタッチで、うまい文章だと感心していたら、ヤフーがMSパワーに取って代わられるのに合わせたわけではないだろうに、“なるチャン”パワーも人並みになってきた。メディアはたいがい新編集長の就任と同時に、編集方針も執筆陣も刷新される。『フォーサイト』もしかりだ。そんな変遷を経ても、生き残っている執筆者もいる。梅田望夫さんだ。説明するまでもなく、有名なネット人だ。氏がシリコンバレーに移住して、レポートを書き始めた当初だと思う。確か日電の雑誌か何かで氏の記事を読んだ。すごい書き手が現れたもんだ、と感心した。が、当時はでデビューしたてで、ジャーナリストが本業ではないから、いつまで書き続けるのかなくらいにみていた。ところが、『フォーサイト』の連載「シリコンバレーからの手紙」を毎号、鋭い目線で書き綴り、その思考は深まるばかりだ。いつの間にか、梅田ファンになっていた。

▼Webの世界は進化している。昨年末から、メディア業界はWeb2.0の議論で盛り上がっている。それには理由がある。活字電波媒体の雑誌・放送・新聞社はWeb事業で、ことごとく新興のネットベンチャー企業に話題も収益もとられっぱなしで、情けない状況だ。巻き返すには、今がチャンスとばかりに、こぞってWeb2.0研究に勤しんでいる。それを見透かしたように、梅田さんは『ウェブ進化論』(ちくま新書)を上梓した。BCNも上述した情けない企業のはしっくれだ。Web事業をどうするんだ、といじいじしていたら、グーグル・社長の村上憲郎さんがこの本読んだら、と焼酎で赤い顔しながらニコニコと『ウェブ進化論』を薦める。翌日、入手した。その翌日、BCNの「視点」筆者の大野侚郎さんと食事した。この方も酒で赤い顔して、「ほら、この本あげるよ」と。残念だ。性急に本を買うんではなかった。反省。と同時にこの本にただならぬものを感じる。翌日、読破した。梅田さんは深い思考だった。久しぶりに師と仰ぐ故小林一作先生と議論した気分に浸った。師が増えた。(BCN社長・奥田喜久男)
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