旅の蜃気楼

表参道、欅並木と安藤忠雄の作品と

2006/02/20 15:38

週刊BCN 2006年02月20日vol.1126掲載

【表参道発】なんて素敵な街並みなのか。表参道のケヤキ通りがますます美しくなった。コートの襟でも立てて、気取って歩いてみたくなる。仲間は2,3人がいいな。冬の欅は黒っぽい幹と細い枝がすくっと空にそびえる。素通りしてしまうほど地味で目立たない。季節が春めいてくると、欅は真価を発揮する。可愛い小さな一人前の形をした薄緑色の葉っぱを細い枝につける。夏ごろになると、枝いっぱいに、葉っぱの屋根ができて、暑い日差しを遮ってくれる。好きな樹木のひとつだ。その欅並木の中に表参道ヒルズがグランドオープンした。さっそく安藤忠雄の作品を見に出かけた。

▼欅の並木と打ちっぱなしのコンクリート色が馴染んでいる。彼のために用意されたロケーションではなかったのかと、錯覚するほどだ。樹木と建築物の高さに一体感がある。葉が繁ってくると、自然と建物の一体感はさらに増すだろう。歩きながら見るショウウインドウには、ずらりと“おしゃれ”が並んでいる。必ずしも超高額なブランドばかりではないのが、いい。さすがだ。中に入った。やや暗い。目が慣れてくると、館内は上から下まで吹き抜けだ。きらきら、お店の照明が輝いている。床が螺旋状になっている。緩やかだ。「下に行こうか、それとも上に行こうか」。これが最初の逡巡だ。

▼最上階から時計回りに、店舗を冷やかしながら下りる。靴、服、かばん、宝石、カフェ、いろいろ目移りする。「あれもいいな、これもいいな」。でもな、「つぎのもいいな、向こう側のもいいな」。逡巡どころか、優柔不断になる。買い物で夢が膨らんで満腹だ。

▼歩きながら館内を眺望する。どこかで体感した記憶がある。そうだ、竜安寺の石庭を廻り見る時に似ている。暗い吹きふけの空間は旅館の奥まった中庭のようだ。館内はカメに落ちる水滴のサウンドアートで終始している。やるもんだ。五感を痺れさせる条件が揃って、だから懐かしいんだ。歩くうちに仲間とはぐれて、お目玉を食らった。その日は愛知万博を思わせるほどの長蛇の列で、まったく面食らった。表参道ヒルズは「BCN AWARD/ITジュニア賞」の会場に近いです。来年はぜひご覧ください。(BCN社長・奥田喜久男)
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