旅の蜃気楼

紅葉の上野で「うっとり」見とれる

2005/12/05 15:38

週刊BCN 2005年12月05日vol.1116掲載

▼上野博物館の「HOKUSAI」は大人気だった。大英博物館、ボストン博物館、メトロポリタン博物館など、世界中から集めた北斎の展示会が4日、終わった。北斎の作品が良くぞここまで、世界に評価されているものだと、感心した。「北斎って、すごい人なんだ」と改めて、認識した。ゴッホ、セザンヌと同格の芸術家が日本にいたと思うと、自信がわいてくる。告白すると、どうもこれまで、日本の絵画は西洋より劣っていると、思っていた。不勉強でした。同時開催の「伊万里、京焼展」を見た。古伊万里の深みに驚き、仁清、乾山の焼き物に「うっとり」見とれて博物館を出た。

▼紅葉の美しい公園沿いに東京芸術大学の「藝大アートプラザ」に足を向けた。11月9日に開設したばかり。芸大の正門から公園寄りに入り口がある。白を基調にした清楚なギャラリーだ。落ち着いた校舎の色に同化している。さすがだ。絵画、ガラス、彫金、ネクタイなどさまざまな作品がずらりと並ぶ。作者を紹介したカードがある。平山郁夫学長の作品、シルクロードも青いリトグラフで並んでいる。何気なく見ていたが、皆さん芸大卒である。考えてみれば頷ける。この学校は美術学校だ。岡倉天心が校長に就任した当時から115年に及ぶ卒業生の作品を仕入れるだけで、日本最大の画廊ができてしまう。

▼絵画類だけではない。建築科もある。芸大卒の吉村順三が自分のために建てた軽井沢の別荘は、すてきだ。森の木々の葉が、降る雨に打たれて舞う姿を、家の中から椅子に背をあずけて「ぼー」っと気配を見る。そんな映像を思い浮かべると、「うっとり」する。まだまだある。芸大には音楽学部もある。このギャラリーでは、卒業生や教員の書籍のほか、音楽CDも販売している。もし、音楽学部を卒業した演奏家のCDをすべて集めたら、日本の音楽歴史館ができる。昨年4月の国立大学の独立法人化で、「収益事業」が解禁になった。芸大がその気になったら、「日動画廊やジャニーズ事務所ができるんだ。IT商品のデザインも期待したい」。大学の民営化の活力は数年もすると爆発しそうだ。(上野発・奥田喜久男)
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