旅の蜃気楼

チョンゲチョンの再生

2005/11/07 15:38

週刊BCN 2005年11月07日vol.1112掲載

▼思い掛けず、大塚商会の創業者である大塚実さんと、ソウルを旅することになった。83才と56才の道中だから、親子といった雰囲気だ。いい機会だから、日頃聞けなかったことをお聞きしよう。26日朝に羽田空港で待ち合わせ、金浦空港に向かった。「今回の旅の目的は何ですか」。早速質問を開始した。待ってましたとばかりに、返事が帰ってくる。「チョンゲチョンという川のことは知っていますね」。いつもの呼吸だ。大塚さんに初めて取材したのは、もう30年近く前になる。答えはいつも正確だ。事前調査が豊富で、数値にも強い。今も変わらない。

▼ソウル市内を流れる「チョンゲチョン」を47年前に暗渠にして高速道路を走らせた。ソウル市長の決断で、その道路を撤去し、元の川に戻し、浄化した水を流して、市民が川辺を散歩できるようにした。2003年7月に復元工事を始め、今年10月1日に新名所が誕生した。東亜日報の社説の書き出しはこうだ。「今日チョンゲチョンが息を吹き返す。歴史の闇を切り開いて、清流に生まれ変わり、我々のもとに戻ってくる」。歓迎ぶりがにじみ出ている。

▼川には全国から人が押し寄せている。川辺を散策する人の顔はにこやかだ。大塚さんも「すばらしいね。よく決断しましたね。私は今、日本橋川の水質浄化の運動をしています。川の水を昔の美しさに戻して、子供たちが泳げる川にしたい。美しい街の風景に戻したいね」。大塚商会の本社は飯田橋にある。その脇の川は日本橋川につながる。事務所近くの川の浄化は近く始まる。「戦後の日本はすごい勢いで経済成長したでしょ。その間に、私たちは自然を破壊してきた。今からは、破壊した自然を元の姿、いやそれを上回る環境状態に戻したいですね」。チョンゲチョンには日本からの視察も多い。電線と高速道路が地下に埋められ、川の水が昔に戻り、夕方になると屋形船が提灯をともし、食事しながら談笑する客を乗せて、のんびり流れる。すてきな風景だ。「大切なのはビジョンと決断と手順ですよ。わかるね」。大塚さんは「山紫水明」を好んで使う。(ソウル発 奥田喜久男)
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