Letters from the World

ルーカスの遺産

2005/05/30 15:37

週刊BCN 2005年05月30日vol.1090掲載

 「俺はベンチャーキャピタリストではない」の名言で知られる巨匠ジョージ・ルーカス。彼のスターウォーズ最新作「シスの復讐」が19日、米国で封切りとなった。

 予約発券システムが主流の今は、さすがに40日間野宿して映画館一番乗りを争う1980年代半ばの熱気はない。それでもサンフランシスコ市内の映画館には巨匠の地元ということで各地から数百人のファンが集まり待機した。

 「デジタル特殊効果の時代を10年先取りした」と言われるスターウォーズシリーズも、1977年公開の第1作ではデススターをプラモデルで代用するなど結構アナログなことをしていた。

 ただしルーカスのすごいところは、その直後に優秀なコンピュータアーティストをかき集め、「3D映像製作ソフトの開発」を命じたことだ。

 予算は天井知らず。しかし、こうして生まれた世界初のデジタル映像編集ソフト「EditDroid(エディットドロイド)」は撮影フィルムからハードディスクに映像を落として編集が可能な優れもの。後にアビッドテクノロジーが買収した。

 巨匠の遺産はそれだけではない。最大のものは彼が鍛え上げたデジタル編集チーム。これはアップルコンピュータのスティーブ・ジョブズ氏が1000万ドルで買い、これを母体に誕生したピクサー社は現在興行収入30億ドル。差額だけで「映画史上最悪の取引」とされるが巨匠自身はどこ吹く風。良い映画さえ作れれば後のことにはまるで執着がないのだ。

 そんな太っ腹な巨匠のルーカスフィルム本社(通称スカイウォーカー・ランチ)の周辺には、映像や製作、音声、ゲームなど関連分野のスピンオフ企業がひしめいている。

 今回の新作では史上最高の2200カットのデジタル再現場面を収録。ナポレオン戦争をイメージした本格的戦闘シーンが売り物だ。製作にはこのシリーズを見て感銘を受けデジタルを志した若手も加わった。

 先駆者たちの情熱をたっぷり堪能したいものだ。(米サンフランシスコ発:ライター 市村佐登美)
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