Letters from the World

体内埋め込み型ICチップ

2005/03/21 15:37

週刊BCN 2005年03月21日vol.1081掲載

 サッカー好きの友人からの電子メールで、日本のサッカー・Jリーグの試合中にハンドによるゴールがあったことを聞いた。誤審かどうかで話題になっているとのことだ。スポーツの判定には多くの問題が常につきまとう。この事件をきっかけに日本サッカー界でもシューズやボールにICチップを埋め込んで、審判を助けるべきだという案も真剣に検討されているという。

 米国では、すでに昨年10月に体内埋め込み型チップに関して、食品医薬品局(FDA)が承認しており、まずは医療用として徐々に普及し始めている。

 「ベリチップ」という商品を発売しているフロリダの会社は、2年前にはFDAから医療器具ではないと判断されたために一度は事業規模の縮小を迫られた。しかし今回のFDAの判断により一躍将来に期待が持てる優良企業へ変身することになった。

 「ベリチップ」は注射器で皮膚下に埋め込む。これまでも迷子ペットの防止策として広く活用されており、同様の技術は誘拐などの犯罪に対処したり、出所後の犯罪者への追尾目的などにも使われている。今回の承認で医療分野での使用が可能となり、患者取り違えミスの減少や、本人確認が困難な患者の身元照会が容易になることなどが期待されている。

 米国では誤審も含め、そのすべてを人間が行うことこそがスポーツの醍醐味であるという認識が強い。野球のメジャーリーグも決して機械判定を導入することはなく、経験豊かな審判員の判断に委ねることを基本方針としている。

 技術の補助があるからといってスポーツの感動が得られやすくなるわけではない。ましてや誤審がなければ全て好ゲームかというともちろんそんなことはない。

 埋め込み型ICチップの利用が進めば、病院での利便性は確かに増すだろう。しかし要は使う人間次第だ。技術はあくまで人を助けるものでしかない。このことを忘れてはどんな技術も技術のための技術でしかないことを忘れるべきではない。(米ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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