Letters from the World

買収城下町、シリコンバレー

2004/10/04 15:37

週刊BCN 2004年10月04日vol.1058掲載

 先日、私が教えている早稲田大学の学生たちと一緒に、サンノゼのシスコシステムズにお邪魔した。今回の訪問は、同社のM&A(企業合併・買収)戦略について講義を受けるためだ。仕事柄、これまでMCI(旧ワールドコム)やアメリカ・オンラインなどいろいろな会社の買収戦略を聞いてきたが、今回のシスコはなかなか面白かった。一番印象的だったのは、買収するベンチャーが同じシリコンバレーのなかにいることを「重要な条件」としている点だ。

 シリコンバレーのハイテク業界は、流れが速いため、すべてを自社開発していては間に合わない。そこで適切なベンチャー企業を買い取り、製品の補完や新市場開拓を行う。シスコシステムズの場合、3割程度は、こうした買収によって研究開発をまかなっているという。もちろん、ベンチャーも、7-8割は買収されることを前提に製品開発や事業戦略を展開している。つまり、大きな研究所や製品開発部門を社内に抱え込むより、適切な技術を持つベンチャーに投資したり、買収したりするのがシリコンバレー流というわけだ。

 たとえば、シスコシステムズでは、製品補完目的で買収すると、30日から90日程度で自社の製品シリーズとして発売する。2か月ほどで自社の組織に吸収し、即戦力とするためには、従業員が引っ越しに奔走するようでは困る。同じシリコンバレーのなかなら、通勤場所が変わる程度ですむ。

 特に、開発や製造のキーパーソンが買収後に2-3年はいてもらわないと困る。転居は、従業員を失う重要な要素で、いくら良い雇用条件を提示しても、遠いとやめる確率が高くなる。また、遠いと、吸収するのに時間がかかる。結局、同じシリコンバレーに拠点を持つベンチャーの買収率が高くなる。そういえば、ベンチャーを立ち上げるたびにシスコに買われて、3回も出たり入ったりした話を聞いたことがある。いかにもシリコンバレーらしい話だ。(米サンフランシスコ発:ジャーナリスト 小池良次)
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