Letters from the World

静かな大統領選挙

2004/09/06 15:37

週刊BCN 2004年09月06日vol.1054掲載

 かれこれ14年ほど米国で生活してきたが、今回ほど盛り上がりに欠ける大統領選挙は少ない。先日の民主党大会にせよ、先週末から開催されている共和党の党大会にせよ、テロ対策や戦後処理への配慮ばかりで、それ以外の議論が乏しいからだ。選挙を間近にひかえ、今の時期は経済政策全般にわたって具体的な議論が始まっていなければならない。もちろん、ブッシュ政権が経済政策に乏しいことは以前から知られているが、対抗陣営のケリー候補もパッとしない。しかも、大統領選挙が近づくほど、米国経済の調子が悪くなっていることも気になる。米国では「大統領選挙の年に不況なし」と言われる。それは現役大統領が、再選を狙ってさまざまな経済政策を前倒しして、景気高揚に努めるからだ。ところが今年は選挙前から腰砕けの状態だ。

 一方、ハイテク政策でも不透明感が漂っている。例えば、ブッシュ大統領は、カリフォルニアなどハイテクに強い地域を訪問すると「2007年までにブロードバンドを全米に普及させる」とたびたび口にするが、その具体的な予算や手段については何も出てこない。

 一方、ケリー陣営はブッシュ大統領のブロードバンド公約を「具体性がない」と批判したまでは良いが、自ら具体的なハイテク戦略を打ち出すには至っていない。かろうじて、テレビ放送のデジタル化にともない空白となるUHF帯に着目し、電波免許を競売した資金で「僻地や貧困者へのブロードバンド普及を進める」と述べるばかり。米国経済の牽引車だったハイテク業界をテコ入れするには、あまりに断片的な話だ。

 落胆しているのは、どうやら私ばかりでもないようで、通信業界誌やコンピュータ関連の業界新聞も、まるで「大統領選挙が行われていない」かのように静かだ。しかも、来月あたりからクリスマス商戦の予測が発表されるが、前評判を聞く限り、景気の良い話は飛び出してこない。この調子で大統領選挙が進めば「祭りのあとの静けさ」ではないが、来年は米国の景気が悪くなるのではないかと心配している。(米サンフランシスコ発:ITジャーナリスト 小池良次)
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