Letters from the World

映画業界とIT業界

2004/07/05 15:37

週刊BCN 2004年07月05日vol.1046掲載

 マサチューセッツ工科大学の調査によると、近年ではハリウッドの大作といえども、間違いなく映画をヒットさせるには、ネットでの広告宣伝が必須だという。ヤフーやアマゾンでの映画紹介や批評のコーナーが、興行成績に大きな影響を与えているとされ、これら大手以外でも熱心なファンが運営する個人サイトも、観客動員数に大きな影響を及ぼすという。

 しかし近年のヒット作は、かつての成功作の続編であったり、ベストセラー小説やコミック漫画を原作に持つものがほとんどだ。これは、映画制作には巨額の資金が必要とされ、出資者はまず第一に、投資に対する危険回避を要求するためだ。

 つまり投資の判断が、出資企業の担当者や金融機関の責任者に委ねられるため、映画の質が出資の判断基準とならず、結果として全くの新作に投資するのは危険と見なされやすく、このような傾向が続いているのだという。

 企業論理が優先し、目先の利益を重視するがゆえに、自由な発想が受け入れられにくくなったかのような最近の映画業界に対し、現在でも制作者の想像力や創作意欲をそのまま作品にぶつけ続けているように見えるのが、コンピュータゲーム業界だ。

 中小のゲームメーカーでも、大手に見劣りしない力量を持ち、優秀なクリエーターが寝食を忘れて情熱を傾けることのできる環境が維持されている。彼らは独自性を維持し、魅力的な製品を世に送り出すことが可能となっている。

 コンピュータグラフィックが話題となった、映画版ファイナル・ファンタジーは失敗に終わったが、同じくゲームが原作のトゥーム・レーダーは成功作となり、続編も制作された。内容次第で今後は、コンピュータゲームが映画原作の主流になっていく可能性も否定できない。

 コンピュータゲームが映画の原作の主要供給元となり、しかもネットでの広報宣伝が大きく関わってくるとなれば、今後の映画業界の命運はIT業界の動向に左右されかねないとも言える。(ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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