Letters from the World

電話が消える日

2004/06/28 15:37

週刊BCN 2004年06月28日vol.1045掲載

 先月、IP電話ベンチャーのボネージが、15万加入に達したとのニュースが流れた。しかし、巨大な米電話業界で、この数字は「浜辺の砂粒」に等しい。例えば、大手のSBCコミュニケーションズは約8890万回線の電話を抱えている。計算するとボネージの加入数は、SBCの1.7パーセントにも満たない。そんなちっぽけな数字でもメディアが大きく取り上げるのは、IP電話への期待が大きいからだ。だが、ぼく自身も彼らIP電話ベンチャーを重視するようになったのは、ここ2年ほどににすぎない。1996年に出てきたNet2Phone以来、コンピュータ・テレフォニーも含めて取材してきたが、大げさなキャッチフレーズとは裏腹に、過去のネット電話には電話業界を変えるような気配は感じられなかった。

 しかし、ボネージやエイト・バイ・エイトなどが切り開いたVoIP電話は、本当に電話を変える勢いを感じる。とはいえ、彼らベンチャーの役目は新時代の扉を開くだけだ。米国では来年からCATV事業者がIP電話で電話業界に本格的な戦いを挑むからだ。そんな矢先、英国のブリティッシュ・テレコム(BT)が、旧来の電話交換網を捨て、すべてIP電話に切り替えてゆくと発表した。BTといえば、英国におけるNTT的存在だ。その同社が、あえてIP電話に切り替える衝撃は、米国でも大きかった。「電話が消える日」を公然と議論する時代の幕開けだ。

 こうして私が歩き回る電話業界は不透明感を増している。無料電話と称して「普及数」でリードする日本に対し、「機能や価格」で優位に立つ米国、そして自ら「制度を破壊」する英国と、IP電話の波紋は複雑極まりない。果たして日本の電話会社は生き残れるのか。消費者は、本当に得をするのか。2年先も読めない状況だ。グラハム・ベルの発明した電話は、100年の歳月を経て全世界に広まった。ボネージが生まれて約3年。やはり、電話消滅の議論は速すぎると思うのだが、時代は待ってくれそうにない。(米サンフランシスコ発:ITジャーナリスト 小池良次)
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