Letters from the World

生活とIT、真の意味

2004/02/09 15:37

週刊BCN 2004年02月09日vol.1026掲載

 生活とITが切り離せなくなってから随分経つ。しかし現在のIT技術は、真の意味で人々の役に立っているのだろうか。現在普及しているIT技術は、ソフトウェアもハードウェアも、その全てがまず技術ありき、利益ありきで進んでおり、我々への貢献は二の次になっているとも言えまいか。

 便利になったことは言うまでもない。莫大な額の経費を削減した企業も多くあろう。これまでは不可能だったことのいくつもがIT技術によって実現し、それらは直接間接を問わず、我々の生活に大きく影響を及ぼしている。しかし、本来の意味で我々のためになっているというには、まだ時期尚早のような気がしてならない。

 私事で恐縮だが、昨年末に大変お世話になっていた方が急逝された。彼はその立場もあり、ご自身の幅広い知識と経験で、ニューヨークのみならず、米国全域におけるIT業界のリサーチに関して、これまで大変な貢献をされてきた方である。彼の仕事ぶりは正確かつ適切で、システムからハードウェア、さらには経済状況まで踏まえた上で、業界の動向をきちんと理解し把握されていた。

 しかし余りに多忙な彼は、ご自身の健康をチェックする余裕はなかったのだろう。彼の知識と経験をもってすれば、インターネットを経由し、多くの医学情報や予防法、健康維持のヒントなど、いくらでも入手可能であったにも関わらず、である。どれだけ技術が発達しても、情報が溢れていても、それを活用する術を知らなければ、価値はないに等しい。車の運転が出来ることと、ドライブを楽しむこととは別物だ。

 我々は既に手に入れたIT技術に関して、どうすればもっと人間の幸福に繋がるかを模索し続けねばならない。同時に企業のため、利益のためだけでは、かえって逆効果となってしまうケースもあることを、肝に銘ずるべきである。最後になりましたが、JETROニューヨークの荒田良平氏のご冥福を心よりお祈りいたします。(ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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