Letters from the World

井の中の蛙大海を知らず

2004/01/12 15:37

週刊BCN 2004年01月12日vol.1022掲載

 経済産業省が「メード・イン・ジャパン」という施策を始めた。発表された概要によれば、世界的に名高い日本の「モノづくり」を見直し、新たな需要を喚起していくという。有望市場とされるなかには、アニメのコンテンツなども入っており、その意味では「モノ」以外でも構わないようだ。

 ところで現在、日本を含めた世界中のパソコンのほとんどで、米国製のOSが稼働している。ニューヨークのショップに出向いても、日本製のソフトウェアはゲーム関連程度であり、ビジネスアプリケーションはもちろん、ユーティリティの類さえ見つけることは難しい。一方ハードウェアに関しては言うまでもなく、ほぼ全ジャンルで日本の製品を見つけることが可能だ。この差は一体何故だろう。

 これまでにも、素晴らしいアイデアと高い技術を合わせ持つ日本発ソフトウェアの話を聞いてきた。いずれも優れた製品で、いくつかは当該の業界の構造を根底からひっくり返しかねないほどの意欲作だ。しかし開発元や発売元は、製品のスペックにのみ重点を置き、実際のマーケティングや、米国での商慣習などを無視して事を運ぼうとしがちであった。彼らは「良いものだから、売れるのは間違いない」と口を揃える。当然の結果として、そのほとんどが市場を確保できずに撤退したのは言うまでもない。

 ハードウェアであれば、製品の善し悪しの判断はたやすい。低価格を維持すれば、それなりに市場を確保できる場合もある。しかしスペックが目に見えにくいソフトウェアを広めるのはなかなか困難だ。優れた製品が世界へ打って出ることができないのは、ひとえに外の世界を知らないが故であり、まだまだ市場確保のノウハウを持たないからに尽きる。

 現状打開のためにまず政府がやるべきことは、広い視野で外の世界を見ることへの啓蒙活動ではないだろうか。井の中の蛙大海を知らず、では真の意味での日本の再生はあり得ない。(ニューヨーク発:フリージャーナリスト 田中秀憲)
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